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不純クリエイターの、ちょっとEFFECTIVEなアイデアの話。

こんにちは、森川晴久と申します。どうぞよろしくお願いします。
実はわたくし、昨年3月まで中部支社に約17年所属。
コロナ禍をきっかけに、残りのクリエイター人生を東京で爆発させて
みようと一念発起し、現在の部署に所属となっております。
肩書はクリエイティブ・ディレクターです。
ちなみに私は一部の友人から「もっさん」と呼ばれています。

私が所属しているチームのコンセプトは、
EFFECTIVE CONTENT 
長くお茶の間の定番として、記憶に残るコンテンツの開発。

EFFECTIVEとは「効果的な」という意味で、
短く刹那的な15秒CMやSNSコンテンツを「定番」として、
長く愛されるコミュニケーションを開発するチームです。

そもそもわたしは、
クリエイター志望でこの仕事をはじめたのではありません。
宣伝会議に通ったこともありません。
なんとなくクリエイターになってしまい、
新卒からそのままずっとクリエイティブに所属し、
なんと!今では広告を楽しんでしまっている男なのです。

そんな、不純な動機からスタートした私のクリエイター人生を振り返り、
今まで創ってきた愛すべきCMを中心に、EFFECTIVE CONTENTについて
書かせてもらおうと思います。


「なんで?もっさんが広告会社に就職?!」


まず最初に、自分が広告会社に入ろうと思ったきっかけを書こうかと。

それは、ずばり!「いい加減な感じ」が魅力的だったからです。

場所は東京、大学時代のバイト先。偶然ですが、そこは広告関係の人が
「打上げ」や「忘年会」を頻繁に催す居酒屋でした。

そこで、繰り広げられる広告会社社員の会話や行動‥。
「なんてテキトーで楽しそうな人達なんだ! ゆるい感じも悪くない! 
これなら俺でも!」と、自分に変な自信をもったのが、きっかけです。

後に、広告会社への入社はハードルが高いことを知ったのですが‥。
広告会社の人って、いい加減な感じを出しまくっている時と、
業務での真剣な時とのメリハリがあることを(たぶん)、
今となっては身を持って実感しております。

いろいろあったあげく、就職活動も終わりに近づいた夏。
最終的に「銀行」か「広告会社」という、仕事にこだわりがないチョイスとなり、「あんたが銀行員になったら、お金に目がくらむ」という母のナイスアドバイスで、名古屋の広告会社に就職しました。

スナック風 もっさん

「なんで?もっさんがクリエイティブ局に配属?!」


地元名古屋の広告会社で、新入社員として働くことになった自分。
その年の新入社員研修は各部署を、一年間かけてローテーションする
ちょっとトリッキーなものでした。配属は研修終了後に決定。

さっそくマーケティング局から研修は始まり、次にクリイティブ局。
この時、「コピーライターって広告会社にいるんだ〜」と
初めてその存在を知りました。(まるで別の生き物?) 
冗談ではなく、入社まで「コピー」は、
複写機のことしか知らない恥ずかしいヤツでした。

研修中、朝は毎日喫茶店でモーニング(名古屋の文化)を食べてまったり。
そんな暇な自分を先輩が見かねたのか、行政の新聞広告競合プレ(20社競合)を、新人の自分がやることになったのです。
(ただ先輩がやりたくないだけか?!)

なんと!その仕事がラッキーにも獲れたのです。
まさにボクサーで言う、ラッキーパンチ! 
このことで、まったくクリエイティブに興味がなかった男が、
突如クリエイターとして生きていく分岐点となりました。

そしてまた不思議なことに、
翌年「クリエイティブ局」に配属となったのです。

不純な男のクリエイター人生がはじまる。


クリエイティブ局に配属され、右も左もわからない私は上司に言われるがまま、TCC年鑑を写経し、ACC年鑑、ブレーンをひたすら読み漁りました。

そこで感じたのが、自分が好きなCMは偶然にも、同一クリエイターの作品が多いことです。特に電通関西の堀井グループや、タグボートの多田さん、あと九州のクリエイターの方々のCMでした。あと、カンヌを受賞していたCMも心にぶっ刺さった記憶があります。

単純な私は、
あんな!人を虜にする映像を自分もつくってみたい!絶対につくるぞ!
子供のような想いで、CMプランナーとして目覚めたのでした。

そんなこんなで、不純な動機からスタートしたわたしのクリエイター人生。その後、身を持って生み出したEFFECTIVE CONTENTな事例 or 方法論をご紹介していこうと思います。


特攻服風 もっさん

①Oneビジュアル、Oneメッセージの力でEffectiveに。


今振り返れば、
お茶の間の記憶に残す、シンプルな手法だった仕事があります。
それはCMプランナーとしてデビュー作、
春日井製菓「のどにスッキリ」というキャンディのCMです。

新米CMプランナーの自分が企画に苦労している時、
当時のタバコ臭いCDからのアドバイス。

「15秒CMは、シンプルな1枚の絵が動く程度だよ」

と言われ、「なるほど!じゃあ カンタンな歌に合わせて、
タレントをスッキリさせるだけでいいんじゃないか?」と
自分の中で吹っ切れた企画です。

伊集院光さんが「のどにス~ッキリ」のかけ声にあわせて商品を食べると、顔が少しづつ「キリッ」とスッキリ美少年に変化するストーリーです。

スッキリ感を印象付けるため、ビジュアルや音の「ギャップ」を利用。
伊集院さんと真逆のイメージ「アニメ声優」「美少女漫画ビジュアル」で構成しました。

また、デジタル志向の時代に逆行して、アナログ的なザラついたトーンにもこだわる点や、伊集院さんが一言も発しないのも、タレントCMらしくない、記憶に残す試みでした。
ラストに鼻から「蜂」がでてくるのは監督のご愛敬です。

春日井製菓のどにスッキリ 「スッキリ伊集院」


②予想を裏切り、 Effectiveに。


30代に突入し、次にチャレンジしたのがCMストーリーの展開方法。

例えば風邪薬のCM。娘がコホン!コホン!と咳をする。するとお母さんが「大丈夫?そんな時は早めに〇〇。」そしてナレーションで有効成分と商品の紹介。最後は元気になった娘と一言。こんな流れでしょうか。

世の中のCMは、視聴者が安心するストーリーでほとんど構成されています。それは、とても効果があり特にロングラン商品ほど使われる手法です。

この安心するストーリー展開を裏切り、記憶に残そうとチャレンジしたのがADK入社1発目のCM「松阪牛せんべい」。問題はCM出稿量が少ないこと。そこで、

1回の視聴で商品名を記憶に残す手法「予想を裏切る展開」を考えました。

設定は高級な松阪牛が、せんべいにされたことをせんべい会社の社員に怒っているシーン。ここまではまだ、理解できると思います。

ここから2つの「裏切り」を考えました。
①怒った牛が、社員の顔目がけて突然、「牛乳」を放出。
②怒り狂った牛を仲裁するため、カウボーイが突然乱入。すると、その人は昔生き別れた兄さんだった。そんな展開です。

高級な松阪牛を「せんべい」にする不条理感。
シンプルとは逆に、情報を畳みかけるスピード感と予想できない展開。
お堅いイメージの報道ステーションの時間帯にオンエアしたので、かなりの反響があった記憶があります。

ちなみに当時、私は実相寺監督のウルトラセブン「メトロン星人」に
はまり、風呂トイレなし4畳半の設定で展開しています。        
FCC(福岡コピーライターズクラブ)最高賞を受賞。

かとう製菓 松阪牛せんべい 「説教」篇


③見たことがないものをビジュアル化し、 Effectiveに。


ご存じの通り、人間には三大欲「食欲、睡眠欲、性欲」があります。

人はこの生物としての「欲望」のために、時に戦争や暴動など理性的ではない行動をとってしまいます。
この「欲望」という目に見えない強いモノをビジュアル化して、商品機能を記憶に残そうとしたのが、春日井製菓「黒あめ」のCMです。

忙しく悩み多き現代人は、「脳」への糖分補給は大切です。
沖縄産黒糖がたっぷり入った「黒あめ」。このCMは脳が糖分を必要とする、ちょっとブラックで悩ましいシーンを描き、気軽に糖分補給できる商品として伝えています。
そして記憶に残すための手法として、

糖分を欲する動物的な欲望を「野獣の手」としてビジュアル化しました。

CMのストーリーは、ある人が悩み事で脳をフル稼働させているシーン。
すると突如、悩んでいる人の頭が割れて野獣の手が出現。
周りにあるケーキや、バナナなど糖分のある食べ物を奪い、
その野獣の手は再び脳に戻る。
そんな一瞬を描いた3タイプのシリーズCMです。

このCMは、なんとTCC(東京コピーライターズクラブ)新人賞や
国際広告賞アドフェストでブロンズも受賞しました。

春日井製菓 黒あめ 「オフィス」篇 「仔犬」篇 「おじさん」篇

④擬人化で、 Effectiveに。


次に紹介するのは瓦メーカー鶴弥の地震、台風に強い「防災瓦」の動画です。近年の「瓦」離れの若年層に対して、瓦の認知や機能性を伝えることはできないか?
そんな思いから、SNSで話題となり、ワイドショーでとりあげられるような60秒動画を制作しよう!ということになりました。

そこで、採用したのは「擬人化」という手法

商品を「人」が演じることで、感情移入やストーリー展開に興味をもち、
深く理解してもらえるメリットがあります。更に擬人化は、エンターテイメント性もあります。特にこの動画のポイントは

シンプルな1枚絵の設定で、ラストまで何のCMかわからないところ。

ストーリーはいたってシンプル。
縦横にがっちりと手を繋ぎながら、寝ているたくさんの男たち。
この時点で不思議な映像ですが、そこに雷雨や火事、挙句のはてには地震まで襲ってきます。それでも、仲間と助け合い絶対に手を離さない男たち。
最後は瓦だとわかるのですが、60秒飽きさせないために、戦争映画のような強い映像とストーリー性、感情的なセリフで記憶に残す工夫をしています。

結果、再生回数1200万回や、ワイドショーや東大王、さまざまなクイズ番組にも問題としてとりあげてもらいました。

カンヌライオンズFILM部門「シルバー」、クリエイターオブザイヤー「メダリスト」受賞。

鶴弥 防災瓦「耐える男たち」篇

➄歌の力で、Effectiveに。


人は勇気や元気をもらいたいとき、与えたいときに歌を唄い、歌を聴き、歌を分かち合います。歌は性別も年齢も国境も越えて、心を奮い立たせ、安らぎを与え、記憶に残します。

私は最近、平成のとある名曲を聴いて、歌詞と同時にその時代の思い出が
フラッシュバックすることがありました。
それだけ、「歌」には計り知れない力があります。

日本メナード化粧品「フェイシャルサロン」TVCMは、

歌の力を最大限に活用し、まさにお茶の間で長く愛される長期ブランド構築の大切さを実感した仕事です

目指したのは何度見ても飽きない、ウキウキする、元気が出るなど、人の記憶に気持ちよく残り続けるCM。実は一番難しいことかもしれません。

この歌のメロディを聴くだけで、メナードフェイシャルサロンを思い出す。そんな誰からも愛されているオリジナル曲は、クライアントの財産となり、効率よくメッセージを伝えやすくなります。

ずっと変わらず美しい深田恭子さんが、
10年以上「フェイシャルサロン月2回~♪ メナード~♪」のメロディにのせて歌っているTVCM。毎回の撮影では深田さんがウキウキしながらサロンへ通う、高揚感を大切にしています。

「フェイシャルサロン」TVCM集


⑥ズラして、Effectiveに。


すでに人の記憶にある「歌」や「リズム」を
ちょっとだけズラすという手法があります。

例えば、亀田製菓の「柿の種」「ハッピーターン」のCMです。

どちらのCMも、オリジナルソングで制作も可能ですが、
世の中にメッセージを浸透させるのには、時間とコストがかかります。
15秒でスピーディーに憶えてもらうため、
既に知ってる曲やリズムを拝借して、伝えたいことを効率よく伝える。
コバンザメ的発想のCMです。

柿の種は「もしもし亀よ」の替歌。
ハッピーターンは「山手線ゲーム」のリズムを活かしています。
どちらも大人から子供まで、口ずさみやすく憶えやすい! 
まさにお茶の間CMを目指したコンテンツに仕上げています。

ハッピーターンでは「粉うま」をキーワードにSNSにも波及させた、
フルファネルでの展開もしています。

柿の種「レッツクラフト柿の種」篇 / ハッピーターン「粉うま」篇

純粋、ときどき不純なクリエイターに。


ここまで、いろいろと事例を紹介しましたが、私自身は広告の先生のような難しいことを考えるタイプではありません。

そもそも広告会社に不純な動機で入社し、クリエイティブへはラッキーな流れで配属された男です。ずっとクリエイティブを続けてこれたのもビックリです。

野球のピッチャーで例えると、
リトルリーグからはじまり甲子園に出場して
プロに入団するのが本命だとすると、
私の場合は、野球に興味もプレーもしたことがない男がプロ野球球団の職員として入社。そこでひょんなことから、なぜかピッチャーとしていきなりプレイして、なんとかなってしまったぐらいレアなケースだと思います。
(例えになっていない?!)

そんな私がこの職業を続けてこれた強み。
それは「一般人の視点」をずっと持っていることかもしれません。
入社するまでは、ただの素人でしたから。

広告はそもそも世の中の方々へのラブレターといわれます。
受け取り手の気持ちが一番大切です。
私のチームのテーマはEFFECTIVE CONTENT/長くお茶の間の定番として、記憶に残るコンテンツの開発です。お茶の間視点がずれていたら、どんなに素敵なアイデアも世の中には響きません。

この仕事をしていると生活者のキモチを忘れてしまったクリエイターの、
一人よがりな表現をたくさん見ます。
確かにカッコいいんだけど、この商品の世界観とは違う。
この商品はこの視点でメッセージしても、伝わらないのでは?
そんな広告を見ると少し寂しい気持ちになります。
プロの視点で、そして生活者の視点でコミュニケーションを開発すること。それが私の中で一番重要なことだと感じています。

そして、私自身が楽しくあること。
人生は有限で、その中でも仕事はかなりの時間を費やします。
楽しい時間を過ごしたいじゃないですか。

自分がつくった映像や文章で、笑顔になる人が増える。
それは自分にとってもうれしいですし、快感でもあります。
こんなクリエイティブの魅力を知ってしまったことが、広告に惚れ込み、
ずっと続けてこられた源泉なんだと思います。

これからもプロでありがら、
不純な時代の視点も忘れずに、モノづくりを続けていければ幸せです。
長々と書きましたが、ここまでお付き合いありがとうございました。


ドヤ顔の本人近影 お気に入りのモペットにまたがり

森川晴久  Haruhisa Morikawa
クリエイティブ・ディレクター/CMプランナー
愛知県生まれ。2005年入社。
クリエイティブフェロモンをこよなく愛する男。

Awards
カンヌライオンズFILM部門「SILVER」、スパイクスアジア「SILVER」、
ロンドンアワード「GOLD」、アドフェスト「BRONZE」、TCC新人賞、
クリエイター・オブ・ザ・イヤー「メダリスト」、FCC最高賞、
AAA最高賞など

Jury
2022年カンヌライオンズ FILM部門日本代表審査員
JAAA クリエイター・オブ・ザ・イヤー審査員
宣伝会議賞、ACC、FCC、CCN審査員 など

Lecture
日本広告学会 クリエイティブフォーラム基調講演
JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー講演
カンヌライオンズ2022講演  名古屋広告業協会講演 など





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