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釣り名人だけ、なぜ、いつも釣れるのか。~元フィッシングライター、現コピーライターだから見えてきたこと~

みなさん、釣りをしたことはありますか。僕は、若い頃に釣りの沼にどっぷりとはまりこんでしまい、ウキを自作していたほか、高校生の頃は釣り雑誌のライターもしていました。はじめまして、ADKクリエイティブ・ワンのコピーライター奥原友明です。現在、エグゼキューション・クリエイティブをコンセプトに掲げるチームで、CM、OOH、WEBコンテンツ、カタログと様々なコミュニケーションツールを企画制作しています。

ん?エグゼ〇△?何だそれ?と思われたのではないでしょうか。この言葉は一旦忘れていただいて構いません。最後まで読み終わった頃には、何となくわかっていただけると思います。

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いま、釣りってどうなの?

最近はコロナ禍の影響もあり、風通しのよい環境下でのアウトドアレジャーが人気です。じつは、そのひとつである釣りも盛り上がっています。おそらく1990年代のブラックバス釣りブーム以来ではないでしょうか。当時は、テレビ番組でも頻繁に取り上げられていたこともあり、釣り人口は現在の約4倍となる2040万人※1 もいたとか。現在は100円ショップでも釣り竿やルアーなどが販売されるなど、釣具の国内出荷は2年連続で105%を超える見込みのようです※2。

では、実際に釣り場の様子はどうなっているかというと、人気の釣り場では、休日ともなると多くの人が押し寄せ、熾烈な場所取り合戦に。しかし、よく見てみると、残念ながら多くの人のクーラーボックスは寂しいことが多いようです。その一方、短時間で本命の魚をいとも簡単に釣り上げている人もいます。この差は、いったい何なのでしょうか。

最近、思いました。これって、広告クリエイティブと同じなのではないかと。どんなに制約が多くても、どんなに時間がなくても、僕たちプロは広告の目標を達成しなくてはいけません。そこで今回は、釣りという切り口によって、エグゼキューション・クリエイティブとは何かをお話ししていきたいと思います。

※1 余暇開発センター『レジャー白書'99』より。 ※2 日本釣用品工業会HPより。

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1. 釣りも、広告制作も、相手を知ることがたいせつ。

みなさん、ぜひここからは、実際に釣りに行く気持ちでお読みください。
「やっと金曜日、週末の釣りのことで頭がいっぱいだ。アジも釣りたい。カレイもいいなあ。クロダイも捨てがたい・・・」 もしあなたが、「よし、全部釣ろう!」と考えてしまったら、釣れない街道まっしぐらかもしれません。ターゲットとなる魚によって、釣りやすい季節が違う、ポイントが違う、食べているエサが違う。ちゃんと魚のことを知り、その魚に合った釣り方をしないと、毎回、安定した釣果を上げることは難しくなってしまいます。高打率で結果を出さないと、名人を名乗れないのです。


広告においても同様で、僕は結果を出すために釣りと同じようなプロセスをふみます。まず誰に向けたメッセージにするのかを、できるだけ解像度を上げて考えます。オリエンシート上の「ターゲットは30~40代」という記述を、奥さんから「今日はタイを釣ってきてね」くらいに解釈していては、きっと痛い目にあうでしょう。タイと名が付く魚には、マダイ、クロダイ、イシダイ、アマダイ、キンメダイ、タカノハダイ・・・すぐ思いつくだけでも、超豪勢な船盛りができるくらい存在します。30~40代を一括りにすることはとってもキケン。1人暮らし?2人暮らし?3人暮らし?食べ盛りのお子さんがいるご家庭では、料理もボリューム優先になるかもしれません。さらに共働きであれば、時短が求められる可能性もあります。たとえば家族構成ひとつを見ても、物事の興味や優先度は大きく変わるのです。

それでは、今回は岸壁からでも釣れるクロダイをねらうことにしましょう。大型になると50cmを超える人気魚種のひとつで、関西ではチヌと呼ばれています。一年を通じてねらえる魚ではあるものの、警戒心がとても強く、季節によって行動パターンが違います。春は、産卵期のために水深の浅い場所にやってきます。この行動を“乗っ込み”と言い、大型が釣れることが多いですね。夏から秋は、水温が上がることに加え海水が濁りやすいことから、警戒心が薄れて活性が上がります。水温が低くなる冬は、深場でじっとしていることが多いため数釣りが難しくなります。たった1種類の魚だけでも大きな変化があるため、名人はつねに生態を計算しながら釣りをします。

コピーライターである僕も、釣りと同じような思考でコピーを考えています。それは、可能な限りターゲットの解像度を上げてコピーを考えること。たとえばケーキひとつをみても、食にこだわりの強い人に伝えるなら、食材の産地を売りにできるかもしれない。健康にこだわる人なら、糖分やカロリーという切り口もありうる。これらの情報を新聞や雑誌、WEBサイトやSNSなどを調べるのはもちろん、家族や友人など身近な人のリアルボイスを聞いたりもします。伝える相手を深く知ることは、効果的なコピーを書くうえでの最短ルートになるんです。

2. 風を読む。空気を読む。作戦が見えてくる。

さあ、金曜日の夕方になりました。仕事よりも、明日の釣りのことで頭はいっぱい。どこの釣り場に行くのか、候補を決めなくてはいけません。4月〇日(土)の東京における天気予報は、「晴れのち曇り、降水確率10%、最高気温18度、北東の風3m~6m」と仮にしてみましょう。天気や気温だけでなく風向きも気にしてみると、ふつうの釣り人から釣り名人に近づけるはずです。東京湾では北東風が吹くと、湾の西側に位置する神奈川の海は濁りやすく、湾の東側に位置する千葉の海岸は澄みやすくなる傾向にあります。クロダイは濁りを好む魚のため、やや神奈川が優勢という見方ができます。今回は、神奈川県の東側に向かうことにしましょう。

広告を企画するうえでは、世の中の空気感や風向きのようなものを、全身で感じながら伝えることを考えます。たとえば家電を例にしてみると、1997年に京都議定書が採択されたことによる環境意識が高まりを受け、商品にも「エコ」という考えが浸透してきました。それが「省エネ」や「節約」になり、東日本大震災後は「節電」という訴求のされ方もしていました。ほかにもミニマリズムの考えが広がると、これまでの多機能商品ではなく、最小限の機能にこだわる商品を求めるニーズも拡大。最近では「おうち時間」がキーワードになるなど、コロナ禍の影響を受けた訴求も目立っています。

世の中の空気感は日々変わってきています。この空気感を読み間違えてしまうと、まったく共感されないどころか反感されることも。そのため、緻密な検証をくり返しながらコンセプトを立て、コピーを考えるようにしています。

3. 好ポイントをねらうことが、好結果への近道。

おまたせしました。ようやく土曜日、釣りに行く日です。さて、何時頃に出発して、何時頃まで釣りをしようか。今回は気合を入れて、早朝から一日がんばろう。そのまま夜釣りに突入するのもわるくない。気持ちはわかりますが、これではエサ代がかかる。体力の限界を超える。さらには家族からの冷たい視線も向けられる・・・釣り名人たるもの、効率的に結果を出さなければいけません。今回は、午後から釣り場に向かうことにしましょう。

昼食後、甘みとフルーティーさが特長のエチオピア産コーヒーを飲んだら出発です。ポカポカ陽気のなか、ドライブしながら目的地へ。週末ですが、お昼過ぎの下り車線は意外と空いていますね。まずは釣り場近くの釣具店でエサを買いながら情報収集。ここ数日の釣果とねらい目のポイント、水温やエサ取りの状況などのリアル情報を集めます。
「乗っ込みのクロダイが、ポツポツだけど釣れてるよ」
「エサ取りは少ないけど、釣り人が多いね。エサはオキアミで大丈夫」
なんて具合です。

15時、今回の釣り場に到着。当初の目論見通り、海は濁りが入っていて気配は良好。1秒でも早く釣りをしたい衝動にかられますが、釣り名人たるもの焦りは禁物です。缶コーヒーでも飲みながら、釣り場全体を冷静な目で観察しましょう。状況によっては、B級と見られがちな場所が、特Aポイントに確変する可能性があります。15時30分、ようやくポイントも決まりました。いよいよ釣りの開始。先ほどの釣具店でエサ取りが少ないという情報もあったので、柔らかいオキアミのエサでスタートしましょう。

このあたりの過程は、キャッチコピーを書くときと同じです。クライアントさんからオリエンを受けると、すぐにキャッチコピーを書きはじめたくなるところですが、ここはグッとがまん。商品や競合他社の状況、さらにはターゲットのインサイトを調べることからはじめます。ねらうべきポイントが見えてから具体的な企画に臨むことが、芯を捉えた企画になるはずです。

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4. 試行錯誤で、ヒットパターンを見つける。

最初の一投から、1時間、そして2時間が経過してもまったく釣れません・・・釣りは気長な人が向いていると思われがちですが、実は、短気な人ほど釣り名人になる才能があります。その理由は、釣れていないときにこそ、試行錯誤が必要になってくるからです。エサの種類、ハリスの太さ、オモリの位置、仕掛けの流し方・・・さまざまな変化を加えて、ヒットパターンを見つけ出さなければいけません。

このあたりは、コピーライティングそのもの。まさに誘い文句です。「〇〇技術で省エネNo.1」という言い方でまったく反応がないとき、少しだけ切り口を変えてみます。「電気代が毎月1000円もお得」「浮いた電気代で毎月ランチが楽しめる」とするだけで反応が格段に変わることがあるのです。特にWEBのリスティング広告やバナー広告では、反応を見ながら訴求ポイントや表現を変えて効果を高めていきます。

また、釣れないからといって気を抜いてもいけません。脇見しているときに限ってアタリが来るというのは、釣りのあるあるです。そして太陽も水平線に隠れはじめた17時45分、ついにウキがスッと沈みました。念願のアタリです!ロッドで大きく合わせると、重量感のある手応え!40センチオーバーの良型を釣り上げることができました。

このあたりのやり取りは腕の見せどころ。それは僕たち広告制作者も同じです。今の時代、目の肥えた消費者は、なかなか商品に見向きをしてくれません。どんなにきびしい状況でも、プロは思わず食いついてしまうキャッチコピーで、ターゲットとなる消費者のココロをつかみとる。一度ヒットしたら、ボディコピーで商品を好きになってもらい購買につなげていく。こうしてみると、釣りって広告クリエイティブと共通点があると思いませんか。

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5. 振り返ることは、前に進むこと。

今日は運まかせではなく、自分なりの仮説を立てながら釣り上げたことに大満足。釣り場をキレイに掃除したら、一刻も早く帰宅して祝杯をあげたいところですが、もうひと仕事。朝、エサを購入した釣具店に立ち寄って、缶コーヒーで冷えた体を温めながら釣果報告を。情報を提供することも目的のひとつですが、他の釣り場はどうだったのかなど新たな情報を入手することもできるため、次の釣行に役立ちます。あとは、ベイエリアの美しい夜景を横目に、安全運転をしながら帰宅です。

最近は、広告でも結果が数値化されることが多くなりました。そのためローンチしたあとも、しっかりと結果を検証します。売上や認知率のほか、数値化できないクライアントさん内での評価もしっかりヒヤリング。キャッチコピーが、「そのまま店頭でのセールストークにつながった」などの声を聞けるときはうれしいですね。さらに身近な人の本音をヒヤリングするのもいいですし、SNSでその広告を検索してみるとリアルな声が拾えます。このようなことをくり返しながら、僕たちも一流の名人と言われるように切磋琢磨しているのです。

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結局のところ、
エグゼキューション・クリエイティブって何?

そう思われているあなた、ここまでの釣りのお話がエグゼキューション・クリエイティブそのものなんです。僕たちのチームは、「機動力と定着力で、いいものをつくり上げる実行部隊」。どんなにきびしい状況でも、情報収集によりすばやくゴールへの最短ルートを見つけ出す機動力。さらにプロダクションのように、アイデアをカタチにする定着力。そしていちばん大事なことが、つねに期待に応え結果を出していくプロフェッショナルであるということ。周囲が釣れていないときでも、確実にターゲットを仕留めるまさに釣り名人。

「今夜は、アクアパッツァが食べたいなあ」といったオーダーからでも大丈夫。マダイ?スズキ?カサゴ?旬の魚を探し出すところから確実に釣り上げるところまで、トータルでお任せください。魚だけでなく、絶品料理としてお届けします。

    ~ 名人になるための心得 ~
1. 釣りも、広告制作も、相手を知ることがたいせつ。
  ▶ ターゲットへの理解力。
2. 風を読む。空気を読む。作戦が見えてくる。
  ▶ 状況に応じた臨機応変な機動力。
3. 好ポイントをねらうことが、好結果への近道。
  ▶ 広告の企画・構成力。
4. 試行錯誤で、ヒットパターンを見つける。
  ▶ クリエイティブの定着力。
5. 振り返ることは、前に進むこと。
  ▶ 次につなげる蓄積力。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。ここまで読んでいただいた方とは、ぜひ一緒に広告でも大物を釣り上げてみたいです。釣りの話に興味を持たれた方とは、釣り関係のお仕事をぜひ。この話の中で出てくるコーヒーがおいしそうと思われた方、コーヒーの広告をいっしょにつくりませんか。3年ほどですがバリスタをしていた僕が、香り高きコピーをご提案します。ドライブシーンを覚えている方、クルマ案件はいかがでしょう。5年間レース活動をしていた経験をベースに、パワフルなコピーをスピード感ある対応でお届けします!

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奥原 友明/コピーライター
プロダクション出身で、グラフィックから映像、デジタルまで、媒体の枠を超えて企画から制作までをしています。また、企業スローガンやステートメントも得意です。
<Award>
広告電通賞、朝日広告賞、日本雑誌広告賞、フジサンケイグループ広告大賞他


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