
アイドルオタクが考える、つぶやかれまくるキャッチコピー!!!
『1章 AKBのCDを1000枚買った学生時代』
学生時代、アイドルに熱中していました。
推しは、AKB48チーム8の小田えりなさん(現在は選抜メンバーとして大活躍しておられます)。AKBの歌姫とも呼ばれた彼女のハスキーな歌声に惹かれ、そしてはじめていった握手会で「好き好きラリー」を繰り出され、ガチ恋落ちしました。好き好きラリーというのは、小田さんとファンが「好~き」と交互に言いあう、今思えば相当イタ恥ずかしいゲーム。私が照れながら発した「好~き」に無邪気に爆笑してくれ、この子しかいないと確信しました。オタクは自分の滑稽さをいじってくれるアイドルを好きになりがち。
そんな「好~き」ラリーを考える愉快な小田さんに似て、彼女のファンもまた面白い人たちでした。ファンとはTwitterでつながり、24時間オタクネタを呟き合うコミュニティができていました。
そこで私は、"誰かが呟いたクセのある言葉"に、
オタクが共鳴し、次々と連なっていく、
そんな衝撃を目撃したのでした。
例えば、CDを大量購入してしまったときは、
その写真と一緒に、
「なんかたくさん届いて草」とか、
「CDまたたくさん買ってしまった~、
お母さんに怒られる~w」
というやっちまった自虐報告ツイートで
タイムラインが溢れていきました。

握手会に参加したいというのはもちろんあるのですが、たくさん買ってしまったという自虐合戦に参加したい、そんなモチベーションもCD購買欲をかき立てているような気がしました。
このSNS自虐合戦の勃発により、
「CDを買う」という行為自体が、
握手会という本番より前に、
ひとつのお祭り事になっていたのです。
誰か1人目のオタクが「たくさん届いて草」という、
ファンを先導する"旗印"となる口火を切る。その"旗印フレーズ"に、他の人たちも乗っかっていく。
まんまと私も、SNSで報告したいという功名心で、CD爆買いオタクになっていくのでした。
(※1000枚というのはオタク界隈では、そこまで誇れる数字ではありません、スイマセン笑)
こんな不思議な現象が、
自然発生的に生まれているなんて面白い!
この気づきを使えば、モノを買うこと自体を、
もっと"エンタメ体験"として設計できるのでは!
と当時学生だった私は感じていました。
そしてその鍵は、
ファンを先導する"旗印"となるようなフレーズを、
偶然誰かが生みだせたかということにある気がしました。
購買体験をエンタメ体験に変える1つのフレーム
①買うこと自体をネタにする“旗印フレーズ”が生まれる
②他ファンも旗印フレーズを使い、買ったことをSNS投稿したくなる
③ファン同士が投稿をツッコミあい、買うことがお祭り化する
誰かの言葉を起点に、ファンが突き動かされていく。言葉がある前と後で、ファンの動きがすこし変わっていく。
旗印となる言葉をつくることができれば、
新しい現象だって生みだせるのではとワクワクしました。
それが、私がコピーライターを目指すきっかけのひとつになったのでした。
オタク語りに花が咲きすぎて、
自己紹介がおそくなりました。
ADKでコピーライターをしてます大見聡仁です。
大学院まではレーザーの研究をしておりましたが、アイドルという引力が私をコピー界に導いていきました。
ADKには様々なクリエイティブコンセプトを標榜するチームがあり、私が所属するチームのコンセプトは、“BOLD EXPERIENCE”。
「生活者を動かす核となるトリガーポイントを見つけ出し、太くて強いクリエイティブ体験をつくる。」というものであります。
オタクコピーライター的には、
「ファンを突き動かす"旗印フレーズ"を見つけ出し、それを用いた強いクリエイティブ体験を通して、もっとファン化させていく、さらなる新規ファンを獲得する。」
と解釈しています。
本noteでは、ファンを動かし、ファンが呟きたくなる言葉について分析し、それを私が実際につくったキャッチコピーに当てはめながら解説していきたいと思います。
目次:
『2章 つぶやきたくなる言葉"旗印フレーズ"』
【旗印フレーズは、自虐フレーズである】
【旗印フレーズは、感嘆フレーズである】
『3章 あえての「2個買い」が、おもしろいんだ!』
『4章 コピーを通して、みんなの想いが共鳴したら。』
『5章 一番のファンになって、旗印コピーを書く。』
『6章 みんなの渦を、つくっていけますように。』
『2章 つぶやきたくなる言葉"旗印フレーズ"』
オタクたちが咄嗟にしてしまう行動の前には、
ポロっと出ちゃう言葉がある。
オタクたちが、沸点に達したときには、
ブワっとこみ上げる言葉がある。
数多の先人オタクたちが、
多くの言葉を紡いできました。
(私の身の回りに渦巻いていた偏ったフレーズをこれから並べていくことに、ご容赦くださいませ。)
【旗印フレーズは、自虐フレーズである】
前章で、「CDたくさん届いて草」という自虐フレーズを紹介しました。この他にもツイッターで呟きたくなるフレーズは他にもたくさんあります。
「揉めるんやが!」、「これは開戦!」、「優勝!」
これは理不尽なことがおきた時に、それを笑いに変える魔法の自虐フレーズ。強い憤りをチャーミングに発散する言葉。例えば、発券したライブチケットがスタンド最上階の残念な席だった時、推しからレスが一度もこなかった時などにオタクたちは衝動的に使っています。席が悪いと知った瞬間、すぐさまSNSを起動。席のチケット画像とともに、「揉めるんやが!」とツイートするだけで、同情のいいねとリプライで溢れます。オタクの自尊心が満たされます。
あえて残念な席を引くことと引き換えに、強いネタをゲットできるのです。
「揉めるんやが」。
この1フレーズで、ハズレくじが当たりクジに変わっていきます。この言葉がなければ、ひとりで不貞腐れって終わり。この言葉を呟きたいから、チケットを買うといっても過言ではないでしょう。
【旗印フレーズは、感嘆フレーズである】
「沸いてぁ!」、「きてあ!」
「やってし!」、「絶対結婚しような!」
これはオタクの感嘆符。例えばコンサートでアガる曲が流れた時、推しメンから爆レスが来た時などに使います。隣のオタク仲間と顔を見合わせ、一緒に叫びます。

みんなが各々の感想を呟くのではなく、
この定型フレーズを息を合わせて発するのです。
オタクは語彙力がない?
いいえ、
これも一種の"旗印フレーズ"だと思うのです。
様々な感情が、1フレーズで集約される。
その言葉で、みんなと1つの空気感を共有できる。その言葉で、みんなと思い出を振り返ることができる。この言葉を言いたいから現場に足を運ぶといっても過言ではないでしょう。
旗印フレーズを一番最初につくることができれば、早くファン熱を醸成していくことができると信じています。そしてこの言葉つくりのファーストペンギンになることが、コピーライターの大きな役割でもあると思っています。
『3章 あえての「2個買い」が、おもしろいんだ!』
またまたオタク話に話が咲きすぎてしまいましたが、ここからは2章の考察を応用した実際のお仕事を紹介していきたいと思います。
まずは、株式会社バンダイ様の「仮面ライダーチョコ リバイス」TVCM。
昨年から放送していました仮面ライダーリバイスは、悪魔と契約して変身する1人で2人の仮面ライダーが主役の作品。ヒーロー人格のリバイと、悪魔人格のバイスのW主人公でした。
仮面ライダーチョコのパッケージデザインは例年1種類でしたが、仮面ライダーリバイスからは、W主人公リバイとバイスのライダーマスクをそれぞれあしらった2種類のデザインにリニューアル!カッコイイ2種のデザインという迷える楽しさが加わりました。しかし同時に、キャラクターの人気差で、売れ行きが偏る可能性もあるのではという課題がありました。
ここで煮えたぎるオタク魂を動員し、考えました。
両方セットで買ってもらえたら最高だなあ…と。
1個ではなく、あえて2個買うことが面白い。
そんなムーブメントをつくることができないか。CDをたくさん買ってしまったことをネタ投稿にしてきた経験から、複数買いはツイートのネタになることを感じていました。仮面ライダーファンが、仮面ライダーチョコをつい2個買ってしまったことを自虐ツイートしたくなってはくれないだろうか。
普通は1個買うチョコを、
あえて2個買ってしまった(てへぺろ)という
流れをつくれる旗印コピーが必要でした。
それは、「2個買ってしまった」という行動を1フレーズで規定し、報告ツイートで使いたくなるものであるべきと考えました。
そうしてできあがったものがこちら!
旗印コピーは、
「リバイス買い」というシンプルなもの。
どちらを買うか、
迷いに迷った結果、
リバイと、バイスの2個分、
つまり"倍"買ってしまったという
超絶ワガママフレーズ。

結果、仮面ライダーチョコの売り上げは大好調!
多くのファンの方が「リバイス買い」をいじった2個買いネタ投稿をしてくれました。
「リバイス買いしちゃいましたw」、「まあ大人なのでね、リバイス買いです!」と呟いてくれる方が現れたり、「リバイス買いなんて、お母さんが許してくれるはずはありません!」、「リバイス買いなんて教えてはいけません、息子が立派なオタクに育ってしまうでしょうが!」と言いながら2個買いを投稿してくれる人も。
リバイス買いという言葉が旗印フレーズとなり、
自分も多く買ってしまったことを、
自虐ネタツイートしたい、
仮面ライダーファン同士で盛り上がりたい、
そんなムーブメントが生まれていきました。
さらには、
「ポケモンカードをリバイス買いしてきた!」、
「ゲームも、リバイス買いだぜ!」など、
仮面ライダーチョコの枠を超えて、
“たくさん買うことの代名詞”として
“リバイス買い”が定着していきました。
「リバイス買い」という言葉が、ファンの方の行動様式として日常生活に入り込んでいったのです。
1個買いではネタにならない。
でもあえて2個買いすることで、
みんなに伝えたいネタに昇華される。
旗印コピーをつくることで、
新しい購買をデザインできたのでした。
(ぜひみなさんもTwitterでリバイス買いと検索してみてください!笑)
『4章 コピーを通して、みんなの想いが共鳴したら。』
次は、テーマコピーを担当させていただいた東京ゲームショウ2022の事例を紹介いたします。(各社様と共同でつくらせていただいたもので、私はコピー制作を担当しました)
今年の東京ゲームショウは、3年ぶりのリアル開催。
ゲーム会社各社、ゲームファン、みんなが待ちに待ったリアル開催でした。様々なものが止まってしまったコロナ禍、それでもゲームはみんなの毎日を照らしつづけた存在だったのではないか。そしてそんな息苦しい時代の中でも、ゲーム会社のみなさんは熱いプライドで、またファンの皆さんに会ったときに大きな驚きをプレゼントできるように、全力で頑張っている、そんな熱い想いをメッセージしたいと思いました。
ここで必要になるコピーとは、ゲーム関係者とファンの想いがぶつかり合い、そして分かち合えるようなものだと思いました。2章でも書いたように、感動を1つに共有できる感嘆フレーズだったら素敵だろうと。
東京ゲームショウに足を運び、「やっぱりゲームは、こうでなきゃ!!」、「ゲームってやっぱり、最高だよな!」と感じた時に、みんなでうんうん!と想いを共有できる旗印コピーを目指しました。

(キービジュアル作画くっか様、
ロゴ・フォント・デザイン 電通様、 キャッチコピーADK)
そうしてできあがったテーマコピーは、
「ゲームは、絶対、とまらない。」
でした。
東京ゲームショウに足を運んだ多くのゲーム関係者、ゲームファンのみなさまが、ボードの写真とともに、このフレーズを呟いてくれました。「ゲームは、絶対、とまらない。自分も、絶対、とまらない。」と呟いてくれる方。思い出投稿として「ゲームは、絶対、とまらない。」と呟いてくれる方。「また来年も帰ってくるぞ。ゲームは、絶対、とまらない。」と呟いてくれる方。ゲームの進化の驚きコメントとともに、このフレーズを呟いてくれる方も。このフレーズが核となり、熱い想いが、厚く厚く重なっていったのでした。
『5章 一番のファンになって、旗印コピーを書く。』
自分が最初のファンになったと想像して、
みんなが動きだすきっかけとなる気分をさぐる。
自分が現場に足を運んだと想像して、
みんなと想いを一つにできる共通感情をさぐる。
みんながツッコんだり、真似したり、
日常生活にまで浸透する公用語に仕立てる。
そうすれば、
広告はみんなが呟きたくなるネタ提供装置になり、ファン同士の結びつきも強くしていく。
旗印コピーを軸に、
モノとファンの出会いが、
もっと楽しい体験になる。
それが、BOLD EXPERIENCEの強さなのです。
『6章 みんなの渦を、つくっていけますように。』
オタクの現場で、先人たちがつくってきたフレーズ。そのフレーズが、多くのファンを熱の渦に巻き込んでいった。それらは、きっと誰かが、ふと偶然呟いた言葉たち。
もしあんなフレーズがあったら、
あんなファン行動も生みだせたはずなのに。
そんなみんなの渦の起点になるような、旗印コピーをこれからも多く作っていけたらと思います。
すべてのことは、言葉ひとつで楽しくなる。
そう信じて、オタクコピーライターは、
すすみつづけます。

Copywriter
大見聡仁/ Akihito Omi
1995年愛知県生まれ。
慶應義塾大学大学院理工学研究科修了、
2020年ADK入社。
コピー、ネーミング、CM企画、SNS施策なんでもやります!
推しから「君のつくったCM見たことあるよ!」と言われるのが当面の夢です。
(アイドル案件も絶賛募集中です!!!)