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クリエイティブの1つの理想形は、寿司職人ではないか。

皆さまこんにちは。私、ADKクリエイティブの高橋J史生(タカハシ ジェイ フミオ)と申します。真ん中の“J”はアダ名のようなもので外国人ではありません。昔から業界の人たちやクライアント様から“Jさん”と呼ばれてきましたので、もう自ら名乗ることにしました。皆さまも恥ずかしがらず大きな声で“J”と呼んでいただければ幸いです。
(注)何故Jと呼ばれているのか?については長くなるのでお会いした時にお話ししますね。
さて私、クリエイティブディレクターの肩書を持っておりますが、コピー、デザイン、CM映像などの基本的な広告制作だけでなく、商品開発、キャンペーン・WEB・SNS開発、さらにはマーケティング提案や企業コンサルなど、何にでも首を突っ込む「ひとり広告会社」として活動しております。今回のこのnoteでは、僕のクリエイティブ流儀をちょっとだけご紹介いたします。

「新しい」は、もう「新しくない」と気づいた、あの夜。

僕がまだ若かりし頃。この新しい仕掛けの広告はオモシロイのではないか?あのタレントを起用してこんなコトやったら話題沸騰間違いなし!このブッ飛びキャラなら絶対バズる!!などと、やや「!」多めな誇大妄想気味の企画をバンバン提案して世の中をあっと言わせてやろうと目論んでた時期がありました。しかーし、SNSを仕掛けたら閑古鳥、タレントからはその企画は出演NGの返事、バズったはいいが商品が全く売れず、と手痛い現実のしっぺ返し。幾つかの案件で世を賑わせたものの、打率三割には遥か遠く焦りと苛立ちの日々を過ごしていました。あのAppleで働く友人からも「お前もお前の業界も、新しいものに飛びつきすぎだ。マスコミの習性かも知れんが人の心はそんなに速くは動かない。目新しいアイデアだけでウケるのは身内とマスコミとせいぜい子供だけだ。真のユーザーには響かない。本質が大事なのでは」と至極まっとうな忠告をいただいたきました。ある日の撮影現場では某演出家に「撮影のイロハも知らずに映像の企画してるのか!実現不可能なコンテを描いて!何が新しい映像だ!!」と怒髪天を衝く勢いで罵倒されジャンピング土下座でひれ伏しました。
その日の夜ひとりヤケ酒を呑みながら考えました。そうだよなぁ、ネットやテレビじゃ毎日毎日「新しいモノ・コト・ヒト」が溢れお祭り騒ぎだ。「新しい」とか「アイデア」だけではその一粒にしかならない。アイデアを自分の手で磨き上げて人々がほほぅと感心するレベルに仕上げなければダメだ。自分の手で高品質のアウトプットまで作るのだ!「ものづくり」が出来てこそのクリエイターなのだぁ!
ここが僕のクリエイター人生の原点だと思っています。

何でも屋、なのに手作り職人。

“何でも屋”的な僕ではありますが、1つだけ大切にしていることがあります。
それは「自分の手を動かして、自分でアウトプットを作る」こと。
一点モノの手作りクリエイティブが、僕のチームの特色です。

広告クリエイターには様々なタイプの人がいます。
広告表現のフレームワークが得意な人、CM映像の企画コンテで勝負する人、キーコピーとキービジュアルにこだわる人、SNSやバズ系の仕掛けが上手い人、等々いろんなスタイルのクリエイターがいます。僕はその端っこの端っこ、手作りにこだわる「クリエイティブ職人」です。

僕のチームがテレビCMを制作するときは、企画から提案、そして撮影・編集を含めたフィニッシュまでを自分たちの手で一貫して作り上げます。演出も撮影も自分たちでやっちゃいます。グラフィックを作るときはカメラマンとなって撮影することもあります。イラストを描くこともあれば、ナレーションをすることも、CM音楽だって作っちゃいます。
映像だけではありません。WEBサイトを作るときはUIのデザインやサイトロゴは自分たちでデザインします。単なる平面デザインではなくhtmlで出力したちゃんと稼働するデータを作りプレゼンすることも。OKが出たらそのデータを元に仕上げは本職のWEB屋さんに綺麗にコーディングしてもらいます。もちろん僕たちチームの能力には限りがある訳で、全部が全部を自分たちで手作りすることは出来ません。タレントやクライアントさんの事情で外部の演出家やプロダクションに外注することもあります。しかし自分たちで出来るものは、極力、自分たちで作りたいのです。

何故、手作りにこだわるのか。3つの理由があります。

1つめは、クライアントに提案した表現を、約束したイメージそのままに完成させたいから。CM映像を作るとき、一般的には演出家を立て撮影・編集を依頼します。しかし演出家に依頼した時点で、自分の頭の中のイメージ=クライアントと約束したもの、から少しずつ離れ始めます。こんなシーンでこんなイメージでこの言葉をこんな風に聞かせたいと演出家に詳細に伝えたとしても、演出家の思考・解釈が入るため自分の想像したものとはちょっとずつズレていきます。もちろん演出家の創造力を活用しハンドリングすることで、元の企画よりも素晴らしい作品に仕上がることも多々あるのですが、僕はこのブレを避けたいのです。
今年亡くなられた脚本家の橋田壽賀子さんは、自分が書いた脚本の台詞を一字一句変えることは許さないと聞いたことがあります。自分の頭でイメージした、考えて考えて生み出した言葉を役者のアドリブで変えられることに耐えられなかったのかも知れません。僕らには彼女のような地位も名誉もないので、シコシコと手を動かし自分自身で作り上げるだけです。そうそうその昔、演出家から「この決めゼリフはちょっとダサいので、こっちのセリフに変えますね」と言われたときには、思わずワレナニイウテケツカンネン!と瞬間沸騰したことは、内緒にしときます。

2つめの理由、予算の中で最大のクオリティを提供したいから。実はこれが一番大きな理由だったりします。演出家でもイラストレーターでもWEBデザイナーでも、外部に依頼すれば必ずギャラが発生します。でも自分たちで手作りすれば部材費以外のコストはかかりません。クライアントの予算は限られているので、その中でヤリクリして良質なクリエイティブを提供するには、自ら手を動かすことが手っ取り早いのです。
またチーム内で制作すれば意思疎通が早く打合せも短時間ですみます。自分たちで作った過去の経験から、この映像はあの時のあのやり方なら簡単に撮影できる、このキャンペーンは前に作ったあのやり方を応用すればローコストで作れる、等々、これまでのものづくりの経験をチームメンバー全体で共有しているので、企画会議は効率的に進みます。会議だけでなく本番の撮影時間も相当短縮できます。と言うことはスタジオ料など制作費の節約にもなるのです。
高コスパで、効率的に、高いクオリティを目指せるのが、手作りクリエイティブの長所です。

3つめは単純です。ものづくりが好きだから。これ、ものづくりやってる人は全員言いますね。やってるうちにどんどん好きになっていくんですよ。特に僕は小さい頃からプラモ作りや木工細工、絵や漫画を描くこと、物語を作ることが好きで素養があったんだと思います。大学も理系に進みプログラムを書いたり、パソコンを組み上げたり、ロボットを作ったりと、ものづくり人生(オタク人生?)をしっかり歩んできた成果ですね。頭の中のイメージを、自分で作り上げアウトプットするのが楽しいんです。

以上、手作りクリエイティブへのこだわりを掲げてきましたが、自分で手作りするには膨大な知識と技術、そして経験の蓄積が必要です。
映像撮影には、カメラ・照明・編集機材の知識をはじめ、人物やアニメ・CGの演出技術、シズル撮影のノウハウ等々。WEBを作る際は、サーバー側の仕様はシステム屋さんに任せるとしても、最低でもhtmlが読めてCGIの構造を理解していることが必要です。映像やWEB以外でも、つくるモノ次第で様々な知識やノウハウが必要になります。この業界に入って数年ぐらいの経験では中々出来るものではありません。

幸い僕と僕のチームには長らくクリエイティブ業界で揉まれてきた経験があります。プロの演出家・カメラマン・照明マンと何百何千回と撮影を重ねながら撮影のノウハウを学びました。何百曲もの音楽制作の中で作家さんからは音作りを、何百人のナレーターさんからはナレーションのツボを教えていただきました。僕たちが手を出せない部分を支えてくれる専門のプロフェッショナルの方々とも人脈を築けました。この経験と人脈の蓄積が、今の手作りクリエイティブの礎になっているのだと思います。
学ぶ機会を与えてくれた多くのクライアント様や、応援してくれたADK営業および会社には本当に感謝しています。素晴らしい経験をいただきました。
m(_ _)m

「手作りクリエイティブの打合せ」を会話で再現してみた。

さて僕たちがどんな風に手作りしているのか。一例としてテレビCMのシズル撮影の打合せを会話形式でご紹介します。今回撮影する食品はスンドゥブ。ご飯がススムあの韓国鍋です。採用されたCM企画は、女性タレントの映像と、シズル映像で構成されていて、今回はそのシズル部分の打合せです。

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最終的に仕上げたCMのシズル部分。
gif画像のためパラパラで荒れてますが実際は滑らかなHS映像です。

残暑厳しい9月のとある土曜日の午後、会議室にいつものメンバーが集合。出席者は以下の5名。都合により一部に脚色とフェイクがありますが悪しからず。

R君:我がチームで最も若い?CMプランナー
N島:海千山千の銀髪のカメラマン、「オゲ」が口癖
T坂:プロデューサー、シズル撮影をもうウン十年やってるベテランP
O氏:特殊撮影の仕掛け屋さん、最近独立したヤリ手
高J:私でございます。この作品では演出もやってます

口火を切ったのはR君。
「豆腐と玉子が空中を美しく舞って、最終的にスンドゥブの鍋に飛び込んでグツグツ煮え上がるシズル狙いです。クライアントさんは本格的なシズル映像を期待しています」
T坂「まずは豆腐が舞うシーンから」
高J「これは、皿載せ、エア打ち上げ、左右から2本ずつの計4本、だな」
O氏「ですね。タイミングはパソコンで、パワーはエア圧で」
N島「オゲ」
R君「なるほど、前に野菜を飛ばした時の応用ですね」
O氏「撮影前にうちの事務所で一回テストしときます」
R君「当然HS撮影ですけど、何コマぐらい必要です?240コマぐらい?」
高J「300コマ必要かも。あと深度が欲しいので絞りは8つは入れたい」
N島「オゲ。最大300コマのT8ね。コマ数は本番で一度テスト撮影してから決めよう」
T坂「300コマだとファントムを用意しますが、ゴールドで良いですか?フレックスはちょっと高いので」
N島「オゲ。むしろゴールドの方が色味がきれいだし」

(注)上文では「直径10㎝の小皿に乗せた豆腐をパソコン制御のエアポンプでバシュッと打ち上げる仕掛け」を話しています。左右に2機ずつ用意して方向や高さを調整してカメラ前に向かって打ち上げる感じです。
文中の「T8」はムービーレンズの絞りT値のことです。ムービーレンズは通常使われるF値ではなくT値で絞りが切ってあります。数字が上がるほどピントが合う範囲が広がります。
「ファントム」とはハイスピードカメラで1秒間に1000コマ以上撮影できる優れもの。GOLDは廉価なのにRGB情報が14bit収録で色がきれい(FLEXはお高いのに12bit収録)。通常の映像は秒30コマ(30fps)で秒300コマ(300fps)は10倍のスローモーション映像に相当します。

T坂「じゃ次、玉子が飛ぶとこ」
高J「アクリル45度パタン、だな」
T坂「G落としね」
N島「カメラはバンクして下で待つわけね。オゲ」
高J「黄身をキレイに見せたいので、黄身と白身は分けて落としたいね」
O氏「白身先行、黄身追っかけで、カメラ前で黄身がセンターに来るように調整します」
R君「コマ数はやっぱり最大300コマ見当ですね」
N島「オゲ。絞りは少し開けて4つぐらいがキレイかも」
高J「いいねぇ!」

(注)アクリル45度パタンとは「玉子をのせたアクリル板をパソコン制御で一気に45度パタンと傾け玉子を滑り落とす仕掛け」のこと。白身は粘性があり滑り落ちが遅いので端に乗せて先行して落とし、黄身は白身の後ろにのせて遅れて落とす。それを下側でカメラを傾けて(バンクして)撮影する。G落としは「重力落下」をカッコつけて言っただけです。

T坂「鍋への飛び込みは?」
R君「240から300コマで、画角は正面と俯瞰の2アングルが欲しいですね」
O氏「では45度パタンを3つ用意して、左右の2台から豆腐、正面センターから玉子を落とす感じでいいですか?」
高J「うん。それと俯瞰は白身はおいしい絵にならないので、黄身だけを落としたいです。鍋のセンターにズドンね」
O氏「では黄身用の“底抜け”も用意しときましょう」
N島「俯瞰の照明どうしよう。玉子が液面から深く潜ると光が当たらない」
R君「鍋つゆに油入れて反射で鍋奥に光を回すってのはどうでしょう」
N島「なるほど!では真上から鍋奥に光を漏らしておこう。最悪ピンスポットで補光だな」
高J「すばらしい!」

※底抜けは「アクリルで出来た四角い入れ物の底が観音開きにパカッと開く仕掛け」です。

T坂「ではR君、最後の鍋グツグツの段取りを言ってください」
R君「えーと、金網を鍋底に敷いて上げ底にして、豆腐を針金で固定、黄身用の受け皿を予めセンターに仕込んでおいて、ツユを注いで加熱し、沸騰したら豆腐に赤い唐辛子を塗ってネギをのせ、最後に真ん中の受け皿に黄身をのせて、カメラスタート!」
O氏「惜しい!」
N島「うーん80点!!」
高J「黄身はね、お湯に沈むんだ。受け皿を使っても横に広がるだけで丸く盛り上がらない」
O氏「だから黄身は、弾力のある黄色いプラスチックで作った“ダミー”をのせて撮影する。別撮りで黄身単体を素材として撮影して、後から編集合成して質感を出すのよ」
R君「ぐぞー!!」

はい、ここまで。こんな感じでメンバー各人がノウハウやアイデアを出し合いながら、手作り会議は勢いよく進んでいきます。今回の打合せはわずか15分たらずで終了。R君も悔しがってはいましたが、彼もまたシズルマスターへの階段を1つ上ることが出来ました。この後5人は、浮いた時間を有効活用するべく新橋の赤い提灯ぶら下がる秘密のアジトで、残暑払いと言う名の泡麦茶祭りを催したことを追記しておきます。

仕掛けがらみのシズル撮影は“特撮”といっても過言ではなく、ほとんどの場合、段取りの打合せは侃侃諤諤の長期戦。また機材もあれもこれも用意しなきゃとコスト増につながります。本番も試行錯誤を繰り返し完徹覚悟の長時間撮影になったりします。特に初見のスタッフが集まった場合、互いの意思疎通や役割分担が不安定なため大変な時間と労力を要します。
一方、我がチームは蓄積された共有のノウハウがあるため、ローコストで勝算のある撮影方法をササッと取り決め、本番撮影も短時間で終わることを目指します。実際このスンドゥブの撮影も段取りよく想定内の時間で撮り上げることが出来ました。
自分たち自身で作る「手作りクリエイティブ」は、効率的でローコストなのです。

「エグゼキューション・クリエイティブ」のすすめ。

僕はADKクリエイティブの西畑ルームという部署に所属しています。このルームのコンセプトは「Execution Creative」。その名の通り、クリエイティブアイデアを確実に「実現する・実行する・完遂する・達成する」ことを約束するルームです。前述した僕のクリエイティブスタイルそのものがここにあります。ルームメンバーも僕同様の手作り派で、頭と手を使ってフレームワークからフィニッシュまで責任を持ってやり遂げます。これ実現できるの?って感じのビッグプロジェクトから、時間がなくて即納品しなくちゃならないマッハ案件まで、すべからく承ります。我がルームに不可能はありません(多分)。
あと僕のスーパーエグゼキューション分野を紹介しときます。これまで食品、ヘアケア・スキンケア製品をウン十年担当してきた経験から、食品シズル・髪シズル・肌シズルに関する企画および撮影は相当得意です。女優やモデルさんも数多く撮影してきました。他にも飲料、菓子、健食、金融、クルマ、電機、官公庁、変わりどころでは女性下着なんかも長く担当してきました。僕個人に関して言えば、演出・撮影周りの実制作部分だけでもお受けいたします。

私たちに興味を持たれた方は、下記のADKクリエイティブモールか、「info@adkco.jp」にご連絡いただければ、馳せ参じます。

ADK CREATIVE MALL 特設サイトはこちら

最後に。
実現できる、実行できる、
プロとしてのクリエイティブを提供すること。

僕が目指すクリエイティブの1つの理想は、寿司職人。
付け台前に座った客に「今日のお薦めは」と問われれば「赤身と穴子が善御座んす」と手短に。「それでは赤身を」の声聞けば、河岸で自ら目利きした極上鮪をさっと引き、本手返しで一握り、最良の赤身を差し上げます。「次は穴子」と聞こえれば、何年も継ぎ足しこさえた秘伝の煮詰めを、人肌の穴子に静かに塗り上げへいお待ち。「玉子をつまみで」と聞こえれば、本枯節の出汁で仕上げた出汁巻き玉子、ガリを添えてそっと置き。
自身の技術と心を込めた一点モノのクリエイティブをお客様に提供できれば幸せです。

今後も何卒ご贔屓に m(_ _)m


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高橋J史生 Takahashi Jay Fumio
クリエイティブディレクターながら、コピーライター・CMディレクター・アートディレクター・フォトグラファー・webディレクター・作詞作曲、と何でも手がけるクリエイティブ職人。マーケティングコンサルも得意です。
これまで制作したCM映像は900本以上。ACC賞/電通賞/IBA賞他受賞多数。


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