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ブランドの生き様を言葉に乗せて届けたい。

それは、今から16年前のこと。

放送作家に憧れ、渋谷で毎週末開かれるセミナーに足繁く通うも「売れるのは氷山の一角」と、今考えればそりゃそうだよな、と思わされる事実を突きつけられた大学1年生の若者は、早々にその道を諦めていました。

はじめまして、杉田雄と申します。前述の若者はもちろん私のことですが、まちがいなく当時はまだ、メンタル弱々の若輩者でした。

しかし、捨てる神あれば拾う神ありとはこのことでしょうか。(いや、ちょっとニュアンスはちがいますでしょうか。)同じセミナーでCM制作の仕事を知り、コピーライターという職を覚えてからは、先代の方々の書籍や作品集を読み漁る日々を過ごしていました。なかでも眞木準さんに憧れながら広告会社の門を叩き、ADKに入社しました。

入社後は、3年半ほど営業職を経験したのち、コピーライターに。キャッチやネーミングなどのコピー開発はもちろん、SNS投稿文や大学案内、CMソングの歌詞や暑中見舞いなど、言葉を必要とするコミュニケーションのクリエイティブ開発を中心に、動画企画もアクティベーションプランも分け隔てることなく考える日々を過ごしています。

BRAND ENGAGEMENTって?

そんな私は今、BRAND ENGAGEMENTを標榜するチームに在籍しています。「そのブランドにしか提供できない体験をニュートラルに考え、生活者とのエンゲージメントを高めていく」ことを目的とするなかで、いちコピーライターとして、こんなふうに意訳しながら日々業務に向き合っています。

「そのブランドだからこその言葉(コピー)を導き、その言葉に基づく体験によって、生活者とのエンゲージメントを生み出す。そして高めていく。」

コンセプトからアクティベーションまで一気通貫できる言葉があるといい、とはよく言われますが、その両者をうまくくくることは、いつも難しいなと思います。

そのとき意識しているのは、言葉でエンゲージメントさせるということ。言葉がもつ意味を的確に伝えることはもちろん、それが話者である特定のブランドと掛け合わされたときに、言葉の意味以上の価値を持ち合わせることで、生活者がただ理解するだけではなく、好意やポジティブな感情まで届けられるかどうかが大事だと考えています。

なぜそう思うようになったのか。それを紐解くために、もう少し自身の人となりについて話をさせていただければと思います。

好きなことは、”生き様”を浴びること。

突然ですが、ドキュメンタリーに浸る時間が好きです。テレビ番組はもちろん、雑誌やネットのインタビュー記事や、自伝本も好きだったりします。

ドキュメンタリーが好きな理由は”生き様”を垣間見ることができるから。自分と思想や性格、身体能力や発想もまったく異なる人の生き方を知ることは、それだけで刺激的です。かっこいい!すごい!と、パワーをもらうこともあれば、同じ人間としてこれは一生かかっても真似できない…と悔しい思いをすることも多々あります。

例えば、アスリートの池江璃花子さん。あるインタビューで、彼女はこんな言葉を発していました。

インタビュアー「今の"新しい自分"は、どんな自分ですか?」
池江璃花子さん「ただの池江瑠花子です。池江瑠花子なんで、池江瑠花子なんだと思います。

NHKスペシャル ハタチの決意 / 2021年1月10日 / 日本放送協会

彼女が患った病気については既に多くの方が知っていると思います。病気の診断がくだり、大変な闘病生活を送った後で、再びレースの舞台へと立つまでの長く険しい奮闘の日々を抑えた番組での一コマでした。

病気によって変わっていく自分を感じながらも、そんなことで私の何かが崩れてたまるか。私はいつだって私じゃないか。そんな強い意志をこの言葉から感じ取ることができると思います。

おそらく病気のことがなければ生まれなかった言葉であり、そのことを誰もが知っているからこそ、深くそして重く、心に刺さるのだなと思います。私はこれで彼女のファンになりましたし、冒頭のサムネイルのツイートにもあるように、明日への活力も受け取りました。(今年8月に行われた学生選手権では、見事50mと100m自由形で優勝。またも勇気をもらいました。すごい!)

冒頭までスクロールされてしまうと、こちらに戻ってこない方も一定数出てきそうなので、再掲。

もうひとつ、心動かされ気づきを得た言葉があります。その一言は、あと数年で100歳になる祖父が発したものでした。私が実家暮らしの頃からよく近況を共有し合う間柄で、背骨も曲がらず食事も三食きっちり完食。やや耳が遠いこと以外は年齢を感じさせないパワフルさで、話すほどに力をもらえるいわば歩くパワースポットのような存在です。そんな祖父といつものように話をしていたときのことでした。

祖父「仕事は忙しいの?」
 私「まぁ、ぼちぼちね。」
祖父「遅くまで働くことなんかも多いの?」
 私「リモートが当たり前になって、夕方からは家事もしないとだから、それまでに終わらないときは、子供が寝てからやることもあるよ。」
祖父「そうか。ただ、たとえ仕事が夜遅くに終わったとしても、仕事があるのはありがたいことだよ、頑張って。

2021年10月5日、実家にて。

一見、コンプライアンス無視で、深夜残業を推奨するような言葉に聞こえなくもないですが、もちろんそんな意図はありません。祖父なりの人生観を知ると、グッと言葉の重みも変わってくる一言だなと思います。

祖父は、戦前・戦中を生き抜き、戦後も生活することすらままならない毎日から仕事を見つけ、還暦を超えてからもなお働きつづけていました。仕事が大変かどうか以前に「働く」という行為そのもののありがたさを身に染みて感じているからこそ、この言葉には重みを感じるとともに、普段なかなか意識が向かない「何のために働くのか?」という事実に気づかされる一言でもありました。

前回と同じ理由により、再掲。

なるほど、生き様こそブランドなんじゃないか。

他にも、人生において心動かされた言葉との出会いはたくさんありましたが、それらも踏まえて共通することは、これまでの日々をどんな想いでどう生きてきたか、その人となりが詰まった”生き様”を知り、その”生き様”が表れた言葉を受け取ったとき、人は胸を打たれ心が動くということです。そしてそれこそがブランドエンゲージメントの真髄なのではと思ったりもするのです。

どんな個性を携えてそのブランドは生まれ、どんな想いを孕みながら行動してきたのか。知名度があっても、そのイメージや人となりならぬ”企業となり”まで伝わっていることは、そう多くはないはずですし、どんな行動をしているかまでを把握しきれている人はほとんどいないと思います。

さらには後発ブランドや海外ブランドなどのライバルも現れる状況で、ある特定のブランドがメッセージを発し、生活者とコミュニケーションをしていくならば、その”企業となり”を知っているほうが、同じ言葉でもその重みは変わってくる、そんな時代になってきているのではないでしょうか。

あらゆるメッセージの発信者が存在する世の中で「なにか言う前に、まずあなたは何者?」と思われるからこそ、作り手としてはそこも極力把握できるような言葉選びに、時間と労力を割いていたい。理想を言えば、言葉(コピー)を聞くだけで、その言葉を発したブランドの事業アクションまでもが垣間見れ、意志や覚悟を感じ取り、共感することでエンゲージメントを高めていく、そんなことを目指したいと思っています。

「noteでなにか言う前に、まずあなたは何者?」という声は特に聞こえてこないですが、一応こちらがこのnoteを書いている10代(左)と20代(右)の頃の私です。

ブランドの意志は、いろんなところに散りばめられている。

そんな理想に少しでも近づくため、ブランドと向き合う最初のタイミングで、私が必ずしていることがあります。それが、

ブランドを知ること

…え?当たり前じゃない?誰だってやってるだろ!なんて声が聞こえてきそうですが、そうですよね。私もそう思います。でも、これを徹底的にやり抜くことが大事だと思うのです。

まず、とことん読み漁る。

コピーを書く、CMを企画する、アクティベーションプランを練る、PRプランを考える…これから進む方向がどこであったとしても、まずは徹底的にブランドや企業に関連する資料を読み漁ります

1.トップページと企業概要を読み漁る。

企業サイトで特に観るのはトップページと企業概要。企業のパーソナリティや好みのトンマナが現れやすく、事業を通じて世の中に対してどんなアクションを試みているか、緩やかな優先順位も垣間見れます。企業を牽引するCEOの代表挨拶も欠かさずチェック。惹かれる内容が多いときは、外部のインタビュー記事なども探ります

なお、企画やアイデアの表現にそれらがわかりやすく反映されることは正直あまりありません。ですが、トーンナリティや文体、語尾や言葉の選び方などに無意識に活きてくると思っています。

例えばこちら。私も制作に携わった、ADK CREATIVE MALLのチームが多く在籍するADK COのトップページ。これを見て、あなたはどんな印象を受けますか?

2.採用情報ページを読み漁る。

専門領域や先端技術を駆使した事業を手がける案件の場合は、採用ページを眺めるようにしています。新卒者や他業界から入社を検討される方向けに書かれている文章は、事業内容をできる限りわかりやすく平易に書かれていることが多いため、初期のインプットに適しています。

3.IRレポートを(ほどほどに)読み漁る。

未来に向けての取り組みを垣間見れるのが、IRレポート。投資家向けに書かれた一連の資料には、その企業の未来への約束と覚悟がたっぷりと詰まっています。細かな数字が持つ意味まで読み取れるともっといいのですが、そこまでのリテラシーを持ち合わせることは、今後の個人的な課題だったりします。

4.過去・競合事例を読み漁る。

最後に行うのが、過去事例のチェック。既存ブランドの場合、これまで発してきたメッセージの変遷や、ブレずに伝え続けているコアの想いをある程度掴めます。競合事例もチェックすることで、これから考えるアイデアがすでにあるアウトプットに似ないためのチェックも兼ねています。

これらを経ることで、そのブランドだから発せられることやそのブランドでないとできないこと、反対に伝えても説得性に欠けるテーマや競合に奪われている領域などが、少しずつ見えてきます。どんな言葉を伝えることで、生活者にどう感じてもらいたいか、その輪郭をぼやっとでもこのタイミングで掴むことが目的です。

ちなみにこの一連のプロセスは、惜しみなくチームに共有します。共通認識を持つことで、チームとしての企業理解の底上げを果たせると思うからです。

ようやく、考える。

インプットをたっぷり行った後、ようやくアウトプットへ。まずはコピーはもちろん絵でも図でもなんでも、頭に残っている情報を自分なりに整理しながら、ただただ白紙に書き殴ります。発散していくことで、クライアント純度100%の情報に、知らぬ間にオリジナルの視点が5%くらい加わり、混ざり合ったアイデアが視界に入ってくるようになります。

取捨選択→深掘り→提案。

ここまでのステップをうまく踏めていれば、しっかりとした判断軸のもとで取捨選択ができます。結果残った言葉やアイデアには、届けたい想いがちゃんと乗っていることが多いため、絞られた方向性で以って再びアイデアを広げつつ深めていきます。

そしていよいよ提案となりますが、機会が許すのであれば、早い段階で一度、クライアント様と話ができる機会をいただき、ここまでの内容を提案/共有してみます。日頃ブランドを取り扱う当事者にしかわからないニュアンスを知ることは、よりブランドの”生き様”を磨くことにつながるからです。

ブランドの生き様を、自分なりに説いてみた事例。

以上を実践しながら、1つの言葉(コピー)にたどり着いた仕事をご紹介します。クライアント様は、西日本電信電話株式会社(以降、NTT西日本と略記)。ある年の新卒コミュニケーションのコンセプト動画の制作が依頼内容でした。

はじめに行ったのは、NTT西日本様を含むグループ各社のHPを読み漁ること。ひたすらに目を通し、グループとしての統一感とその企業ブランドならではの個性を探りました。さらに他業界の採用サイトも眺め、これから考えるコピーがどんな言葉といっしょに並び、比較されるのかもイメージしました。

グループ各社が発信するメッセージを洗い出し、共通項とオリジナリティを探りました。

そこから導き出した個性を、通信インフラによる確実な基盤づくりとICTや光などの最新技術を駆使し、使命と創造を絶えず繰り返しながら、新たな価値に向けて挑戦しつづける姿勢と捉えました。

その姿勢は、トライしたい!と多くの企業が考えてはいるものの、そう簡単にマネできることではなく、この事業領域を牽引しつづけるリードカンパニーとしての覚悟を強く感じました。私はその事実に胸を打たれたとともに、メッセージするべきはどんな価値をこれから創っていくのかだと考えました。

たどり着いたのは常に先の未来に想いを巡らせ、創造しつづけてきたという事実。「これまでも未来を創りつづけてきたからこそ、これからも未来を創る保証がこの企業ブランドにはある」と信じ、ご提案したのがこのコピーでした。

「未来に驚くよりも、未来で驚かせたい。」

“未来”は非常に概念としても大きく、よほどの事実がない限り凡庸としてしまう言葉ですが、NTT西日本様という企業ならその言葉の重みをしっかりと受け止められる器があると思いました。このコピーをぶつけるとクライアント様からはこのような反応がありました。

・考え方はOK。より短くて記憶に残るコピーにしたい
・当時の企業広告の「挑戦のその先へ」くらい1フレーズで収めたい
・セミナー冒頭で伝えても、最後まで学生の頭に残るコピーにしたい

そこから再考し、導き出したのがこちらです。

シンプルながら、クライアント様のご要望を満たす言葉を導きました。

嬉しかったのは「NTT西日本のイメージがさらにポジティブに変わった」など就活生からの反応も多くあったと伺ったことでした。セミナー冒頭で聴いたこのコピーが脳裏に焼きついたまま、使命や挑戦の事業アクションを聴き、企業としての”生き様”を知った上で、このコピーが持つ意味合いを理解いただけたからこその結果だといいな、と思います。

NTT西日本様にも「この言葉には価値がある」と少しは感じていただけたからこそ、2019年より今年度も含めて4年継続して使っていただいており、非常に嬉しく思っています。言葉を軸にエンゲージメントアップを図れた1つの例かなと思います。

生き様を、教えてください。

誰しもに個性があるように、どんなブランドにもそれが存在する理由や世の中に対してどんな価値を提供していくのか、そういった内に秘めた想いや熱い”生き様”があると思います。

近年ではパーパスやブランドプロミスなどと呼ばれる領域でもありますが、ブランドが発する言葉に、積み重ねてきた”生き様”を感じたとき、人は初めて、そのブランドに対してエンゲージメントを高めていく心の準備ができるのかなと思います。

そして、感じた熱量が高ければ高いだけブランドを好きになり、ファンになり、パワーをくれるその相手を応援したくなる、そうやってエンゲージメントが高まっていくのだと思います。そう、私が池江さんの生き様に心打たれファンになってしまったように。祖父の生き様を知っていたからこその言葉に気づきを得たように。

そんな言葉を導きだすために、クライアント様以上にそのブランドを知る気概で向き合い、つぶさにインプットしていく。そこで知り得た存在意義や具体の事業アクションに込めた覚悟の熱量を、決して浮世離れすることなく地に足ついたままの温度感をもった言葉に乗せて届けていく。それがコピーライターとしてあるべき、言葉でエンゲージメントをしていく理想だと思います。

目指すのは、ブランドの”生き様”まで体験できるコピー。あなたのブランドだけが持つ”生き様”がしっかりと刻まれたコピーを、ご一緒しながら見つけ出していけますと、うれしい限りです。

ADK CREATIVE MALL 特設サイトはこちら

30代も半ばに差し掛かりつつある、最近の私です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

コピーライター
杉田雄 Sugita Yu

営業職を経て、クリエイティブ職に転局。キャッチコピー・ネーミング・コンセプト・ステートメント開発を軸に、CMやWEB動画の企画・制作をはじめ、採用ブランディング、メディア開発、さらには大学案内やSNSキャンペーン、暑中見舞いまで、言葉を必要とするコミュニケーションのクリエイティブ開発を幅広く担当。


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