ADKクリエイティブ・ノート
何にでも首を突っ込む私が、PR会社から広告クリエイティブに戻ってきた理由
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何にでも首を突っ込む私が、PR会社から広告クリエイティブに戻ってきた理由

ADKクリエイティブ・ノート

30歳までに芽が出なければ、自分は「向いてない」ということかもしれない。

コピーライターに憧れて広告会社に入った私は、自分の未来をそんな風に思っていました。「なりたい自分」を、いつ、どうやって叶えるのか。恥ずかしながら、具体的に思い描いていたわけではありません。向き不向きは30歳までには分かるだろう、くらいに思っていました。

2002年に社会人になり、間もなく20年。この20年で社会は大きく変わりました。メディア、テクノロジー、職種、働き方、価値観。「コピーライターになりたい」と始まった社会人生活は、ブランドが社会にとってどんな存在であるべきか?を模索する毎日で、同時に「自分はどうあるべきか」を悩む日々でもあります。

はじめまして。印南智史(いんなみさとし)と申します。ADKで、クリエイティブ・ディレクター/コピーライター/PRプランナー、として働いています。ADKのクリエイティブでは「クリエイティブモール構想」というコンセプトのもと、クリエイティブスタッフを特技とするスキルで分類。クライアントのニーズに合わせてチームを選べるようにしています。私の所属するチームは「クリエイティブ・イノベーション」がテーマ。その定義は、様々な課題が未解決の社会に対し、これまでとは違うコミュケーションでその解決と新しい社会の実現を試みること。何が正解なのか誰にも分からない、そんな時代だからこそ、悩み方がポイントになります。私のキャリアを振り返りながら、クリエイティブ・イノベーションで何ができるのか、お話しさせていただきます。

周回遅れのスタート

私は広告会社、PR会社を経て、ADKに入社しました。最初の広告会社での新人配属は営業。苦しくも楽しかった営業4年目、社内試験でクリエイティブへ異動し、念願のコピーライターになりました。コピーを書くことに特別な才能があったわけではありません。公募の広告賞に何度「今度こそ」と思って応募したことか。そんな私が社内試験で訴えたのは、応募した公募の幅を根拠にした「何にでも首を突っ込む」粘り強さ。その結果、合格。なりたかったコピーライターになれたことが嬉しくて嬉しくて、朝から晩までコピーを書き続けました。

同時に焦りもありました。新卒でコピーライターになった人と比べれば、私は「4年遅れている人」でもある。そう当時の上司にアドバイスをもらったのです。加えて私は大学院を出ていたので、学部卒の人に比べると6年も遅れていたからです。

できることは全てやろう。好きな仕事だから、どこまでもやれるはず。文字通り時間を忘れてコピーに取り組みました。しかし好きなことと得意なことは違います。数え切れないくらいのダメなコピーを書きましたし、何度となく自分のダメさ加減に絶望しました。当然、打ち合わせで出す自分のコピーは採用されません。もしかすると、次の仕事には呼んでもらえないかもしれない。「好きな仕事」だと楽しんでいるだけで、何の役にも立ってないんじゃないか?それでも悔しさや不安を、コピーが好きという気持ちが上回りました。

自分の強みとは?

その甲斐あってか、幸運にも不動産会社さんのコピーでTCC新人賞をいただきました。そのコピーの一つは「玄関から出るところを誰かに見られたい。」でした。理想の家を手にしたオーナーさんの喜びを訴求したものです。理想の家に住んだ自分を想像すると、玄関を開け、周囲をキョロキョロしながら出かけていく自分の姿が浮かび、それをコピーにしました。このコピーで気づいたこと。それは自分が相当に「自意識過剰」である、ということです。

コピーはクライアントの商品やサービスを好きになってもらうため、見た人の心を動かすものでなければなりません。しかし見た人の心を動かすにはどんなことを書けば良いのか、その答えはありません。「印南君にしか書けないことを書くこと」だと師匠の一人がアドバイスしてくれたのですが、それが何なのか、書いている当時は分かりませんでした。しばらくして、たくさん書いたコピーの中でクリエイティブ・ディレクターに選ばれたものはどれも、自意識過剰な様子を切り取ったコピーであることに気付きました。商品やサービスを買った時の、冷静に考えると恥ずかしい自意識過剰な自分を捉えることが、オリジナリティになるかもしれない、と自分の武器を見つけたように感じました。そして少しずつ、書いたコピーが選んでもらえるようになっていきました。

同時に気付いたのは、コピーライターのスキルは汎用性が高いこと。シンプルに言えば、動かしたい相手のことをできる限り想像して、その相手に向けた効果的な言葉を発見するのが仕事だからです。動かしたい相手のことを、どれだけ思い至れるか。メディアが変わっても、施策が変わっても、あるいは企画書を書くのでも、誰かに口頭で報告するのでも、そのスキルは活かせるわけです。


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新しい一歩

その一方で、徐々に募っていった思いがあります。もっと自分の強みが欲しい。コピーライターとして培った技術を、他のことに使ってみたらどうだろう?やがて営業からコピーライターを目指した時のことが頭をよぎりました。何にでも首を突っ込む。新しい職種にチャレンジするタイミングではないか。自意識過剰なことが強みになると分かっても、それで自分が目指すところまでは行けてない。だったら、できることをベースに、自分にしか出来ないオリジナルの仕事をつくって、その価値を認めてもらうしかない。今、言葉にするなら「キャリアの拡張」です。そうして飛び込んだのがPRの領域でした。

近くにあったのに、遠いPRの世界

広告が効かなくなった、と言われるようになってから時間が経ちます。その間にPRは日本の広告会社の施策の一つになりました。PRの世界に飛び込んで感じたのは、同じ媒体の中にあっても、記事や番組は広告とは全く違うルールと概念でつくられていること。そして、それが外からは分かりにくいことでした。例えば新聞には経済面があり、社会面があり、生活面があります。それぞれの面を担当する記者が「何を取り上げたいか」は異なります。そして自分が取り上げてもらいたい情報には、常にライバルとなる情報がたくさんあり、記事になる前はそれらも見えないことが多いのです。

何より広告との大きな違いは、メディアは企業の商品やサービスを取り上げたいのではなく、その背後にある世の中の動きや新しい潮流などの現象を取り上げたいこと。この点を踏まえてPR活動を行わないと、上手くいきません。商品の情報だけを提供しても、それはメディアが求めているものではないからです。偉そうに書いていますが、最初から分かっていたわけではありませんし、恥ずかしい失敗もたくさんしました。しかし、自分が夢中になってつくってきた広告の隣にも、社会をダイナミックに動かすチャンスがあることを知りました。

これまで名前のなかったモヤモヤした思いが新しい概念になったり、お客様相談室の電話が鳴りやまずに店頭から商品が消えてしまったり。メディアに提供した情報から記事や番組がつくられ、接触した人たちが反応し、世論ができていく。ブランドが提供できることと、世の中が求めていることが繋がることで、大きなうねりが生まれるのです。PRとは社会と新しい合意形成をつくる技術と言われますが、リアルに世の中を変えていける術であると感じました。

PRは事実をベースにしたコミュニケーション。情報が溢れかえっているからこそ、事実にもっと可能性があるのかもしれない、と感じたのです。自分なりの答えが、PRのスキルで、広告も変えていけるんじゃないか、という想い。広告なんて誰も見ない、そんな風に言われることもあります。確かに以前に比べれば効きにくくなったかもしれない。しかし、それは情報がこれほどまでに溢れる前との比較です。そして商品やサービスを知ってもらう手段に限定した場合ではないでしょうか。リアルに社会を変えていくコミュニケーションとして、広告の力も使えないだろうか。加えて、PRの仕事にコピーライターとの共通点があることに気づきました。メディアに取り上げてもらいたいことをどのように言語化するか。言葉を受け取った記者、記事に触れた読者は、その言葉をどう感じるのか。PRでもコピーライターのスキルを駆使していたのです。こうして広告の世界に戻ることを決意しました。


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広告とPRを握手させたい

今、私はADKでクリエイティブの一員としてPR領域の業務を行っています。一つのお仕事でPRもクリエイティブも担当するケースもあれば、どちらかだけ、というケースもあります。

広告会社、PR会社の両方を経験した立場からすると、広告とPRはその境目が溶けつつあり、今ほど同じ目的に向かって両方がうまく機能すべき状況は無いように思います。しかし、それぞれの効果を単独で最大化しようとすると、相手の役割を見失いがちです。PRの立場からすると、広告は枠を買って自分の「言いたいことを言う」、一方的な手段に感じてしまいます。広告の立場からすると、PRはブランドの話ではなく周辺の情報を拡散するための施策の一つに感じてしまいます。そして、どちらが主でどちらが従なのか、という判断になりがちです。担当する人が別の部署だったり、別の会社だったりすることも多く、お互いの意識を合わせていくことはかなり大変です。
 
私の個人的な意見ですが、PRの魅力は、メディアに限らず第三者を介したことによる客観性の担保。他人から聞く話の方が耳に入りやすい。そしてターゲットに限らず、その周囲にいる人たちも含めて動かしていける。そんな他者の声の活用がPRの強みです。広告の魅力は、ブランドの主張を自らできること。自分は何者で、どうなりたいのか、自分の声で伝えることは広告にしかできないと思います。この「他者の声と自分の声」の重なる新しい意味を発見し、ブランドを社会に愛されるようにすること。コンテクストプランニング、日本語にすると、社会を捉えた文脈作り、が私の得意な領域です。ブランドの信念と世の中が繋がり、企業と生活者が手を携えて社会をリアルに変えていくことこそが、今、有効なコミュニケーションだと確信しています。

ここから、私が携わった仕事を2つご紹介します。

第三の人生を、つくる。

一つ目は、2019年のオリィ研究所「分身ロボットカフェDAWN」。この仕事にはコピーライター、PRディレクターとして関わりました。分身ロボットカフェは、障害のある方など外出困難な方が、社会参加をするための取り組みです。病院や自宅のベッドの上から分身ロボットOriHimeを操作し、遠隔で接客などの仕事を行うカフェです。

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OriHime:遠隔で操作できる分身ロボット(オリィ研究所のサイトより)


このOriHimeは、一見、人工知能で動くロボットのように見えますが、そうではありません。ひとが操作していることがポイントです。そして日本だけでなく、海外からも動かすことができるのです。オリィ研究所のミッションは「人類の孤独の解消」。代表である吉藤オリィさんは、幼少の頃、病弱で長期間入院したことで、強い孤独を経験しました。その経験が元になり、孤独を無くすことを仕事にしました。身体障害者の方など、外出困難な方は、孤独を感じています。そして働きたくても働くことが出来ないことが多く、助けてもらうことばかりが多い自分を責めてしまいがちです。そんな孤独を抱えている人たちに、たとえ寝たきりになっても働ける場をつくり、社会に参加するきっかけにしてもらうことが狙いでした。

障害者の社会参加は素晴らしい取り組みです。しかし正しいが故に、素通りされてしまう可能性もある。善意に満ちた他人事になってしまうのです。この取り組みをどうやって多くの人が「応援したい」と思える文脈にするか。このカフェが実現するのは、たとえ体が動かなくても、体の替わりとなる分身ロボットを動かして働くことです。つまりカフェが目指すのは「たとえ寝たきりになっても働ける社会」です。これまでは、年を取り、体が動かなくなって寝たきりになったら、その先は無いと思われていました。しかし、社会人を終えた第二の人生の後、健康寿命が過ぎて寝たきりになってからも人は生き続けます。寝たきりには先があり、その「第三の人生」を社会に先駆けてつくっていくことがこの取り組みなのです。こうして「寝たきりの、先へ行く。」というコンセプトができました。

oryリーフレット

出典:「分身ロボットカフェ DAWN verβ2.0」コンセプトブック

PRでは、人生100年時代を迎えた現在、誰もが寝たきりになる可能性があること、そこにはロールモデルが無いことを訴えていきました。アプローチ先は新聞の社会部や経済部、テレビの報道など。実は、分身ロボットカフェは2018年に第一回が行われており、2019年は2回目でした。2018年はテクノロジーや新しさといった文脈でメディアに取り上げられていたため、2019年は、分身ロボットを操作する「ひとの物語」に焦点をあてました。パイロットたち(分身ロボットを操作するひとをオリィ研究所では「パイロット」と呼びます)の物語に合わせて、10月のカフェオープン以降、半年以上に渡って多くのメディアに取り上げてもらうことができました。分身ロボットカフェは今、日本橋に常設実験点が作られ、多くのパイロットが活躍しています。 ※分身ロボットカフェのイノベーションとしての意義については同じチームの小塚さんも書いていますので併せてご覧ください​。


パイロットよりさんのツイッター投稿

出典:より@分身ロボットカフェパイロットさん/twitter

吉藤オリィさんのツイッター投稿

出典:吉藤オリィ@寝たきりの先をつくるさん/twitter

広告に出演してくださったパイロットマサさんのツイッター投稿

出典:マサ@OriHimeパイロットさん/twitter


美味しさってどんな役割?

次は、プラントベースチーズ(植物性チーズ代替品)・プラントベースバター(植物性バター代替品)のブランドである「Violife」です。

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Violife商品ラインアップ 画像の出典:Violifeサイト 

2021年9月1日に日本で新発売したこのブランドのローンチに、PRディレクターとして関わりました。今では当たり前になりつつある「プラントベース」という言葉も、当時はまだあまり知られていない言葉で、チーズやバターにも植物性という選択肢があることを想像しにくい状態でした。

このブランドの魅力は「圧倒的な美味しさ」です。「美味しい」という、PRでは扱いにくい価値をどうやって広げていくか。それは「植物性なのに美味しい」という、カテゴリーならではの、そして商品本来の価値でした。

「植物性」と聞くだけで「乳製品が持っていた美味しさが損なわれてしまう」という先入観を持たれがちです。実際、Violifeは海外で先行して発売しており、高い評価を得ていたのですが、その理由は「植物性食品は美味しくないと思っていたけれど、食べてみたら美味しかった」というものだったのです。よくよく考えると、今、社会に求められているのは「持続可能性」。たとえ環境に優しい商品であっても、続けられないものでは意味がありません。「美味しさ」は、持続可能性を高めるのに重要な要素なのです。そこで、Violifeで「植物性食品を美味しさで選ぶ」という選択肢をつくる、という文脈を打ち出していきました。

メディアの皆さんに商品を食べていただき、その味を体験していただくべく、試食会を実施。そしてなぜ商品が生活に取り入れやすいのかを実感してもらうため、クライアントにレシピを開発していただき、そのレシピ動画も見てもらいました。新型コロナウィルスの第5波の影響で、リモートでの実施となりましたが、多くの記者さんに味の良さと狙いを実感してもらい、記事にしていただきました。関東1都6県で先行して新発売したViolifeは2022年3月に全国で発売される予定です。

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レシピの一つ:ビオライフ”きのこのビオバターソテー” 

自分に何を見出すか

クリエイティブとPRを行き来する中で、自分の強みは何なのか、ずっと悩んできました。同時に20年近く社会人をやってきて思うのは「常識は変わる」ということ。20年前、「30歳になるまでに芽が出なければ」と思っていたのは、30歳までに人生のピークがくるという常識があり、その常識は変わらないと思っていたからです。

常識が変われば、必要な武器も変わる。そして武器が見つかるきっかけは、向き合うことを避けがちな、悩みや不安に潜んでいると思うのです。ネガティブな感情は、辿っていくとポジティブなことにつながっている。そう、信じています。営業からコピーライターを目指す時、なんとか捻り出した「何にでも首を突っ込む」という私の強みは、ネガティブな感情にも向き合うことだと今なら自信を持って言えます。

遡れば、高校での進路選択では理系を選びました。人の心に興味があり、得意なのは文系科目。でも好きなのは理系科目。心理学は日本では文系に分類されているけれど、将来、人の心は数字で解明されて理系の分野になっていくだろうと半ば勝手な想像をし、理系を選びました。大学は理工学部で、河川の流れを解析する方程式の研究をしましたが、大学院では川の流れを人の流れに変え、社会心理の先生のもとで人の流れのシミュレーションを研究しました。そして人の心を動かすものに携わりたいと広告を仕事に選んだ結果、今の自分があります。振り返ると、自分の興味と出来ることが繋がっていなくても、恐れずやりたいことに首を突っ込んで生きてきたと言えます。その結果、自分なりの武器が見つかったんだと思います。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。もしお会いできることがあれば、ぜひ、あなたの悩みに首を突っ込ませてください。クリエイティブ・イノベーションでお応えします。

印南智史/Satoshi Innami                                                                                          クリエイティブ・ディレクター/コピーライター/PRプランナー                                  広告会社、PR会社を経てADKへ。東京コピーライターズクラブ会員    <主な受賞歴>TCC新人賞、TCCファイナリスト、D&ADWood Pencile、ADFESTINNOVA LOTUS、SpikesAsiaグランプリ(INNOVATION)、ACCグランプリ(デザイン、クリエイティブイノベーション)、PRアワードシルバー等

猫と暮らして、約1年半。その無敵の可愛らしさを実感する日々です。

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この投稿の中で触れさせていただいたもの

TCC新人賞のコピー:https://www.tcc.gr.jp/copira/id/24106/

OriHimeについて → https://orihime.orylab.com/

Violifeについて → https://www.j-oil.com/consumer/pbf.html


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