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見知らぬ土地で息子を見失って、初めてわかった「コンテンツ力」。

こんにちは。山崎雅之と申します。二児の父です。このたび、ソリューションアイデアの専門店街「ADK CREATIVE MALL」で、「EFFECTIVE CONTENT/エフェクティブ・コンテンツ」というコンセプトのチームを立ち上げました。以前はKPI COMMITMENTというチームを率いておりましたが、新コンセプトで再スタートすることにしました。

私は、自分がCMをつくることで、商品が売れる。そしてクライアントさんに喜んでいただける。個人の理念以上に誰かの喜びを支えているという実感で、この仕事を続けています。そんな自分は、そもそもどんなCMをつくるのが得意なんだろう?と改めて問い直しました。

・一発ネタではなく、みんなが「ああ、あれね」と言ってくれるCM。
・壮大なCMよりは、ちょっと楽しいCM。
・なんとなく、長~く続いている定番のCM。

書き出してみると、CMを中心とした得意な領域があります。今回は、そんな私が「エフェクティブ・コンテンツ」というコンセプトにたどりついた理由を、息子の日常を中心に、お話ししたいと思います。

人は、感想から話したい。

小学生って、学校から帰るなり突然「あれ、すごかった!」とか「あれ、たのしかった!」とか言いませんか?なんの説明もなく、いきなり感想。世の中のお父さんお母さんは、子どもが懸命に話す言葉足らずの難解な内容を、日々、苦労しながら解読されていることと思います。

息子「あれあれ!すごかった」

私「あれって、なんだよ」

息子「えーっと、あれ!きょう遠足じゃなくて…」

私「社会科見学だったんだろ?」

息子「そうそう!で、暗くて、怖くて、災害のがすごかった」

私「災害ったって、地震とか火事とかいろいろあるじゃん」

息子「地震とか、火事とか…、でもだいたい地震!」

私「社会科見学の施設で災害の映像を見たとかそういうこと?」

息子「そうじゃなくて、壊れたビルが、本物じゃないけど、あるの。原寸大で!」

私「映画のセットみたいな?」

息子「そうそう!電気が遠くのほうで、ビリビリ…とかなってて!」

よくよく話を聞くと『そなエリア東京』という災害体験施設にある巨大地震直後の停電状態をジオラマセットで体験してきて、その感想が第一声の「あれあれ!すごかった」なのでした。

そんな感想から描きおこしました。(画:上杉麻実)

このように強烈な体験は、感情を伴って人の記憶に刻まれますが、果たしてCMを見たときに「すごかった」と言われるかというと、なかなかそうはいきません。しかし、少なくとも「たのしい」「おいしそう」「かっこいい」など、どう感じてもらうのか。これは商品サービスの訴求内容とは関係のないところで、あらかじめ計算しておく必要があります。

とっさにでる言葉と、とっさにでない言葉。

そんな息子は小学一年生のときに、迷子になったことがあります。

家族で初めて訪れたとある繁華街。歩行者天国で屋台などもたくさん出店しているお祭りで、息子はその人ごみに紛れ、はぐれてしまったのです。

帰りの新幹線の出発時刻ギリギリで急いでいたこともあり、妻と一緒にいたはずの息子が、妻の元にもいなくなり、妻は妻で息子は私についていったと思っていたらしく…。どこではぐれたのかも、まったく見当がつきません。最後に息子の姿を見てから小走りで移動し、少なくとも10分以上は経っています。もちろん息子は、携帯電話をもっていません。

私は、汗をかいてカラダは火照っていたはずなのに。一気に血の気が引き、体内の筋肉と臓器すべてが委縮したような感覚に陥り、膝から崩れ落ちそうになりました。

これがもし近所の公園だったり、よく行くデパートの迷子だったら、そこまで落胆しません。しかし、移動しながらはぐれてしまい、最後に見てからかなり時間が経っています。そして、息子には土地勘がまったくありません。見ず知らずの場所で一人残された息子は、どれだけ不安な気持ちでいるのか。想像したくないことを想像し、心臓がぎゅーっと掴まれたようなつらさに襲われます。

泣き出している妻。どうして、しっかり手をつないでいなかったのだろうと深く後悔しながら、それでも「世の中の人に、悪い人はいない」「きっと、いい人が交番まで連れてきてくれる」と自らに繰り返し言い聞かせながら、近くの交番に駆け込みました。

すぐに警官から、息子の名前や年齢、最後に見かけた場所や時刻などを聞かれました。いつもであれば即座に答えられるようなことも、なかなか言葉がでてきません。気が動転していると、息子の名前でさえ一瞬では出てこないのです。そこからは深呼吸をしながら、伝え間違えのないように、一つ一つ丁寧に質問に答えていきました。

そのとき、

警官「お子さんは、どんな服装ですか?」

この質問だけ、即座に答えられました。

私「赤い野球帽をかぶっています」

もともとは保育園に通っていた頃から、私が「どこにいても見つけやすいように」という理由でかぶらせたのですが、本人がいたく気に入り、いつの間にかカラダの一部のようになり、近所では「あの赤い帽子の子」。まさに、マンガのキャラクターのごとく、毎日毎日、赤い野球帽をかぶっていました。

お祭りに動員されていた警官のトランシーバーに「迷子。赤い野球帽…」そんな音声が繰り返し伝えられていきます。警察官のみなさんが懸命に捜索する中、私にできることは交番で祈ることくらいしかありませんでした。

それから30分ほど経ったでしょうか。お祭りの事務所テントで、赤い野球帽の男の子が保護されているとの連絡がありました。確認して欲しいとのことで、パトカーで現場まで連れて行ってもらいました。

息子でした。

赤い野球帽の少年は、のんびりと、お祭りスタッフのお兄さんからもらった、うまい棒を食べてました。

本当に、本当に、よかった。

話をきくと、お祭りのはっぴを着たお兄さんに「迷子になった」と自ら申し出たそうです。お祭りのはっぴを着ている人なら、きっといい人だと思ったのでしょう。

そんな寿命が縮まるかと思った出来事も、いまは思い出として語れます。そして気が動転すると、本当に言葉って出てこないんだなと実感しました。でもなぜ、

赤い野球帽。

そこだけすぐに答えられたのだろう。

あらゆる記憶は、色やカタチだけでなく、ニオイや様々な感情などがつながった、あいまいでボンヤリとした集合体のようなものだと思います。でも、私の中で「赤い野球帽」だけは瞬間的に記憶の引き出しから飛び出してきたのです。

赤い野球帽をかぶって毎朝元気に学校にいく姿、近所の公園で走り回っている姿。赤い野球帽というビジュアルと、息子を愛らしいと思う感情とが結びついていた。だからこそ、すぐに答えられたのではないかと。

ちなみに、息子は小学生高学年となった今でも赤い野球帽がトレードマークです。旅行先で一度なくしたので、いまは二代目です。こうなったら、ずっとかぶり続けて「あの赤い野球帽の少年ブランド」を確立して欲しいです。

息子近影。現在は靴も赤い。

さて、例として極端ではありますが、広告においても赤い野球帽のような記号は非常に重要なファクターです。しかし、それだけでは記憶にとどまらない。そこに「感情」がセットにならないと、それはただの本当に意味を持たない「記号」です。

コンテンツに込めた意味

本題に戻りまして、私はCMを中心に制作していますが、比較的長い期間、1つの商品やサービスに携わらせていただくことが多いです。もちろん、商品やサービスのよいところを、いかに生活者に届けるかに苦心するわけですが、その時に気をつけていることがあります。

どう記号化できるか?×どういう感情をもたらすか?

感情を伴っているCMは記憶に残りやすい。星の数ほどあるCMですから、うれしい感情を生活者に届けて、ほんのすこしだけでも記憶にとどめてもらう。そして、好きなテレビ番組やドラマのように「好き」になってもらいたい。そんな「コンテンツ」のように表現を磨き上げ、継続することで定番化する。「エフェクティブ・コンテンツ」というコンセプトには、そんな思いを込めています。いいCMは、いいテレビ番組と一緒で、長く続いていくものですよね。

ああ、あのCM好きだったかも。そんな定番になれるといいなあと思いながら、きょうも広告制作に臨んでいます。

パッと!ピッと!楽しい家族コンテンツ。

現在、担当させていただいているプロミスさんの広告。CMでは「なぜ家」という家族設定のストーリーものですが、普通の家族が登場するだけでは、あまり印象に残りません。そこで、やけにカラフルな服装と変な髪形。そして、なんだかいつも明るい4人。

このシリーズが開始して、すでに4年たちますが、CMというよりはドラマのようなコントのような「コンテンツ」を意識しながら制作しています。生活者からみて「なんだか好き」そんな距離感を保ちながら、いつも楽しくチームで企画をしています。

明石家さんまさんが、回転するコンテンツ?

とにかく歌いながら、回転するCMです。

創味食品さんのパスタソース「ハコネーゼ」。売上好調の秘密は、一度食べてもらえばわかるその圧倒的なおいしさ。とにかく目立って食べてもらう。いまは「ハコネーゼ?ああ、さんまさんのCMのヤツね」と覚えてもらっていますが、美味しさも伝えたいし、商品パッケージも印象に残したい。

ということで、回転するさんまさん⇒回転するシズル⇒回転する商品…。じっと見てしまう謎めいた回転。歌もやけに哀愁感ある「ハコネーゼ、ボロネーゼ」だけ。なんだか目が離せない「気になる、おいしそうなコンテンツ」を目指しました。

創味食品さんは、とにかく味へのこだわりがハンパない。根強いファンがたくさんいる、まさに唯一無二の食品会社です。僕も担当する前から、ちょっとお高い「創味のつゆ」のファンでした。もちろんCMも、唯一無二のものでありたいと思います。

冷蔵庫に常備、定番です。

エフェクティブ・コンテンツが得意なこと

ここまで読んでいただきありがとうございます。最後に、私たちのチーム「エフェクティブ・コンテンツ」のまとめです。

伝えやすい記号と、ちょっと好きになってもらう感情。ああ!あのシリーズね!と蓄積できるような「コンテンツ」のような広告で、商品を好きになってもらう。そして誰もが知っている定番をつくる。

・大型キャンペーン対応、王道感ある展開。
・中長期的パートナーシップ。
・お茶の間ど真ん中な表現。

こんなクリエイターが必要でしたら、お声がけください。わかりやすくCM中心の仕事を紹介しましたが、もちろんデジタルからグラフィックまで対応。先ほどの事例のように、息の長いキャンペーンを担当してきた経験をフル活用して、みなさまのお力になれればと思います。

ADK CREATIVE MALL 特設サイトはこちら

あ、そろそろ、赤い野球帽の息子が帰ってくるので、このへんで。

赤い野球帽、いいね!

書いた人

山﨑 雅之 YAMAZAKI MASAYUKI (Creative Director/Planner)
ここでは紹介しきれませんが、お茶の間のCMをいろいろ担当。
ハコネーゼのCMはこちら
プロミスのCMはこちら

イラスト
上杉 麻実 UESUGI ASAMI (Art Director)

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