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人との距離感が近いとよく言われる私の 仕事においての人との距離感。

初めまして、アートディレクター(以下、ADと省略)の怡土希帆です。「いときほ」と読みます。怡土一族の末裔です。
人との距離が近いと良く言われます。物理的にも、精神的にも。まず単純にパーソナルスペースが人と比べ極端に狭いようで、話していると「近い」とよく言われます。他には、沈黙が苦手なのか静かになると周りの人を質問攻めにしたりします。(もちろん、そういうことが嫌な人もいるので、相手を見て調整していますが。)
そんな私ですが今年に入ってから、ブランドエンゲージメントを掲げるチームに所属しています。

「あなたのブランドしか提供できない体験をニュートラルに考える。 それが生み出す顧客とのエンゲージメントが何より強いと知っているから。」

これが、私の所属しているチームのコンセプトです。
ブランドのチャームポイントと真摯に向き合い、それを顧客にとって自分ごととして魅力的に感じられるよう素敵に伝え、ブランドと顧客をつなぐ架け橋になる。
そんなコンセプトだと思っています。敢えて「いらすとや」さんの力を借りると、こんなイメージ。

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そんなチームに所属している私なのですが、今回はこれまで担当させて頂いたお仕事の中でも、特に印象に残っているお仕事をチームのコンセプトと関連づけてお話しようと思います。


▼目次
1.見知らぬアドレスからの依頼メール
2.営業不在、ADのぼっちオリエン
3.とコミュニケーションの深度とアウトプット
4.チームとはクライアントと作り手で線引きされる?


1.見知らぬアドレスからの依頼メール

残業で遅くなったある日、くたくたになって自宅のアパートの階段をうなだれて登りながらメールをふと見ると、見知らぬアドレスからメールが届いていました。要約すると、

●新人アーティストを担当している音楽ディレクターです。
●作品を業界誌で拝見しました。
●新人アーティストのCDジャケット及びアーティスト写真のディレクションをお願いしたい。
音楽ディレクター…作詞家・作曲家・レコーディングスタッフの選定、スケジュール管理、ジャケット写真のプランニング、CDを完成させる“完パケ”など、レコーディングからプロモーションまでの一切を統括する仕事。作詞・作曲をこなすアーティストを精神面で支えることもある。(引用:https://www.tohogakuen.ac.jp/oshigoto/detail/?n=55))


まず、会ったこともない人が自分の作品のことを知ってくれているという驚きと喜びを感じました。
(同時に自分の宣伝って大事なんだなと思ったりも)
しかも仕事をお願いされている…!

要約すると3行の文章ですが、ディレクターさんのメールの熱量はかなり高く、人との関係性を大事にしている人柄が見て取れました。すぐに返信して会う約束をしました。


2.営業不在、ADのぼっちオリエン

オリエンといったら担当営業さんが話を聞きに行くか、もしくは営業やらストプラやらクリエイティブやら色々なチームの人が参加して直にクライアントさんの話を聞き、その後どうお題に答えるかチームで話し合う、みたいなことが通例だと思います。
さらに言うと、営業さんはオリエンの内容によって、スタッフィングするスタッフを変えることの方が多いので、クリエイティブは実際、呼ばれないことの方が多い気がします。
だけど今回は営業さん不在。クライアントさん→AD(私)とコンパクトなスタイルで動きました。
営業さんを介することでいいこともたくさんあるけれど、ごく稀に、クライアントさんとの距離を感じる事態に陥ることもあります。
今回は、CDジャケットとアーティスト写真というアウトプットの性格上、またオファーの経緯上も、直接話して仕事を進めたいな…、と思いました。何より、熱い想いでメールをくださったディレクターさんに第三者を介して会話をするというのが何となく失礼に感じたからかもしれません。
結果それが私に密度が濃い色々な経験をさせてくれたように思います。

さて、オリエンの内容なのですが、このアーティストの名前はSano ibukiさんといいます。
当時、 Sanoさんはちょっと変わった方法で作曲をしていました。
どんな方法かと言うと、オリジナルの物語を作り、その物語の主題歌を作るというあまり聞いたことがない方法です。その物語は綿密に練られており、実際の物語作りのように設定資料を作ることも多々あるのとのことです。
その物語は日常的な物語からファンタジーまで、一瞬の出来事から相当な長い時間の経過を伴うものまで様々。私たちはその物語の片鱗を曲を通して知ることができる、という訳です。言うなれば、歌という形式を借りた物語を紡ぐ人。
そんなアーティストの初の全国流通盤。オリエンの内容は、

●アルバムのタイトルはEMBLEM(アーティスト自身の紋章ともなるようなアルバム)
●今回のアルバムのEMBLEMを作りたい
●それぞれ違う物語からなる7曲構成のミニアルバム
●あくまでアーティストは語り部なので、顔を前面に出す必要はない
●物語を感じるモチーフや考え方の提示

アーティストというのは明快な世界観を持っているものなので、やりたいことも明快な印象でした。


3.コミュニケーションの深度とアウトプット

オリエンは明快だったものの、完成まで、クライアントさんと妥協のない議論を重ね、多くの時間を共にしました。その結果、生まれたのがこちら。

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1つ1つの曲が物語なので、古書をモチーフにしたデザインです。
もともとは違う方向性で動いていたのですが、やりとりしていく中で、Sanoさんが古めかしいものが好きだという話を聞きこのような方向に落ち着きました。
この古書の質感やデザインのイメージは、クライアントさんと一緒に1日かけて神保町を歩き回って、探しました。古書のデザインのセオリーやパターンも、複数の古書を参考に研究しました。
あれでもない、これでもないと、様々な古本屋を一日中歩き回って、探して、最後には皆でさぼうるのクリームソーダを飲みました。
表紙のエンブレムは曲から想起しうるモチーフやアーティストから想起しうるモチーフを組んでエンブレムをデザインしました。
写真ではわかりにくいのですが、黒や金の箔押しの質感はレタッチでリアルに再現しました。

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中面もストイックに古書です。

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本の、のどに落ちる影も再現しており薄さの割に重厚感を感じるようにしています。紙の質感はCGではなく本物を使っています。紙の素材は各ページそれぞれ違う紙の素材を使っています。リアルな古書だとしたら、同じ見栄えのページはないはずなので。(少ないページ数だからできたこととは思いますが…!)

歌詞の文字組みや色も曲のイメージによって変えています。

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同じ本の中ではあるのですが、それぞれが独立した違う物語なので、世界観を統一しつつもちょっとずつ違った印象に仕上げました。
また、紙の質感の上に文字を置くとどうしてもべたっと「ああ、紙の素材の上に文字をそのまま載せたんだな」という印象になり嘘っぽくなってしまうので、紙の上に文字を乗せて、その上から濃度を調整したり、微妙なかすれをレタッチでつけて、よりリアルに見えるようにしました。
(余談ですが昔、美大受験の予備校に通っていた時に講師が「いいデッサンはどうやって描いたか分からない」といっていたのですが、それを目指しました。デッサンだけでなく割と多くの物事に言えることのように思います。)

CDはケースの中に入っていますが、ケースも少し工夫しました。CDの盤面やインレイ(CDのケースのデザインが入る部分)は割と表紙のリサイズやリデザインだったりすることが多いかなと思っているのですが、古書である表紙を開くと、夜空に月が広がるという構成にしました。音楽を聴くとなるとストリーミングサービスが主流の今の時代、CDを買った人にしかできない体験を提供できたらなと思っていました。

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これはアーティストの曲から想起しています。あと、密かに彼の歌声は月のようだなと感じていており、それを形にしたこのアイデアはすごく喜ばれました。

このように言葉にできない印象を、目に見える形にするということ、それはブランドエンゲージメントのキーになりうることだと思います。
どんなに強いイメージを持っているクライアントさんでも、そのイメージには靄がかかっています。そのイメージをクライアントさんとのやりとりの中で掬い取っていく。
そもそも、言葉での表現というのは伝えたいことを伝える手段の1つに過ぎず、その人の考えの一部でしかないと私は思っていますので、言葉以外の情報をいかに想像するか、感じるか、紐解いていくかというのが、コミュニケーションにおいては重要だと思っています。

4.チームとはクライアントと作り手で線引きされる?

最初この仕事が始まった時はチームとしてではなく、1人で進めるものになるのかなと思っていました。事実、ADK社員としては私1人だったので。しかし実際は、関わっている全員が対等に話せる関係になれて、それは間違いなくチームでした。
対等に話せる関係だったからこそ、ブランド(=アーティスト)、そして彼らを取り巻くクライアント筋の皆さんの願いや気持ちにより添いたいとより強く思えたような気がしますし、多分クライアントさんも話しやすかったのではないかなと思います。
お互いの話しやすさというのは、この仕事において結構大事だと考えており、クライアントさんや社内、セクション間でたまに起こるすれ違いや大きな問題はほぼコミュニュケーション不足で起こっていると思います。何となく役割間で壁を作ってしまったり、遠慮してしまって質問できなかったり。
ブランドを深く表現するには、いかに深くクライアントさん含めてチームになれるか。これに尽きると思います。

最後になりますが、私はクライアントさんとの距離を、詰めて本当の意味でのチームになり、クライアントさんが視覚化できないブランドの言葉以外の情報を想像し、感じ、紐解いていくかが、ブランドエンゲージメントクリエイティブなのではないか思っています。
もちろんクライアントさんはクライアントさんであることに変わりはないのですが、1つのチームとして考えて、同じ目的に向かって、気持ちに寄り添って、お互い向き合って、共創関係の中でいいものをつくっていけたらいいなと思っています。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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アーティスト情報
Sano ibuki
https://www.sanoibuki.com/


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アートディレクター 怡土希帆
多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。アートディレクションを軸足に色々なジャンルの仕事をしています。音楽とファッションと食べることが好き。趣味はアニメ鑑賞とDJ。子供の頃から色々な意味で人との距離が近いと言われ続けている。
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