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“常識”をアップデートする。広告クリエイターだから、できること。

突然ですが、わたしはXジェンダーです。「え!会社のnoteでカミングアウト!?」とか、「そもそもXジェンダーってなに?」という声が聞こえてくるような気がします。(あとでちゃんとご説明します!)今でこそ男性・女性以外の性別の存在が広く知れわたっていますが、わたしが学生の頃はまだそんな世の中ではなく、また、わたし自身そういったことへの知識もほとんどありませんでした。ずっと生きづらさを感じながら生きてきたわたしが、どうして広告クリエイターになることにしたのか、そして、広告だからこそできると信じていることを、わたしなりの目線で書いていこうと思います。

〈目次〉
・生きづらさを、なんとかしたくて。
・"常識アップデート"は、広告だからこそ。
・ヤングスパイクスで挑戦した、"常識アップデート"。
・自分をアップデートしつづける。
・人生の選択肢をひろげる、ライフデザインクリエイティブ。
・付録


生きづらさを、なんとかしたくて。

Xジェンダーって?

はじめまして、有田絢音(ありたあやね)と申します。ADKという広告代理店でコピーライターをしています。冒頭からのカミングアウトに驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、実はわたしとしてはそれほどのことでもなかったりします。ずっと前から性別が男女できっぱり分かれていることに違和感があったので、周りの人のことも”男性性”、”女性性”という軸の中でのグラデーションで感じ取るようになりました。(もちろん、この軸の中にはまらない性別の方もいらっしゃいますね!)そんなわたしとしては、男女のどちらかにきっぱりハマっていない人、世の中に実はもっと多いんじゃないかな〜と思っています。ただ、ちょっとした違和感やモヤモヤに人より多く向き合って、Xジェンダーという、より自分にフィットする概念を見つけることができただけ、という感覚です。

まだまだなじみのない方も多いかと思いますので、ここでXジェンダーの説明を。Xジェンダーとは、簡単にいうと「男性でも女性でもない性別のあり方」のことです。一言でXジェンダーといっても、その感じ方は人によって様々で、男性・女性の両方の自分が混ざり合うあり方や、そもそも男性や女性という枠組みを一切意識しないあり方など「中性」「両性」「無性」「不定性」の4つのタイプがあると言われています。さらに、これらが年齢によって変わる人もいるそうです。(出典:anone,サイトより)わたしの場合は、「無性」と呼ばれる「男性にも女性にも当てはめてほしくない...!」というタイプがいちばん自分の感覚にしっくりきているように思います。

こじらせまくった、幼少期・学生時代。

Xジェンダーという性別の存在を知ったとき、わたしはこれまでのあらゆる生きづらさに納得しました。例えば、小さい頃は、女の子向けと男の子向けできっぱり30分ごとに別れている朝のテレビ番組にすごく違和感がありました。どちらかに当てはめられることが無性に嫌で、女の子向けと男の子向け、まるっと1時間見たり……。(どんな反抗。)

女の子っぽいものが好きでなく、中性的な服装を好んでいました。
(弟がわたしの100倍あざとかわいいっ!!)

小学生になると、男女それぞれで仲良しのグループができていましたが、女の子だけのグループに入ることに拒絶反応のようなものがありました。どこかのグループに入らなければぼっちになる……。とはいえ女の子のグループに入るのも無理…...。結果、身を削ってボケまくることで、性別を超越した「有田というやばい生き物」という存在になり、クラス全体と仲良くなることで小学生〜高校生までをなんとか生き伸びました。(たくましい性格に育ててくれた両親に感謝。)「やばい生き物」になることで女性として見られなくなることも好都合でした。当時のわたしにとって、文化祭は全校生に「やばい生き物」として周知される絶好の機会だったし、mixiは「やばい生き物」としてより高みを目指すための反省日記でした。(変なやつだと思われて失うものも多かったので、今はやめています。)

”常識“が生きづらさを生んでいる?

前置きが長くなってしまいましたが、自分が生きづらい経験をしてきたからか、わたしは性別以外のことでも人の生きづらさに敏感なところがあるように思います。生理痛を我慢しながら仕事している人、大丈夫かなぁ……。肩がこりやすい人、スーツの着用が義務なのしんどいだろうなぁ……。こんな感じで、もっと生きやすい世の中にできないかなぁ、といつも思っています。
性別のことに限らず、誰もが大なり小なり生きづらさを抱えているように思います。そしてその多くは、今の世の中で”常識”であったり、”ふつう“とされていることと、一人ひとりにとっての心地よさとの間にあるズレによって生まれているのではと思っています。

”常識アップデート“は、広告だからこそ。

そんなわたしが広告業界に入ったのは、「広告なら、”常識“にまで影響を与えられるかも」と思ったからです。

ひとつは影響力の大きさ。広告はよくも悪くも影響力が大きいものです。TVCMを放送すれば、例えば関東地区なら、視聴率1%でも一気に約42万人に届くことになりますし、TVCMほどのマス広告でなくとも、広告は、ターゲットに適したメディア接点をつくりできるだけ多くリーチすることを目指すものです。

もうひとつは、広告ならではの特性です。例えば映画や漫画でも誰かの生きづらさを訴えることはできると思います。ですが、そこにお金を払って見てもらえるかどうかは、生活者の判断に委ねられますし、どうしても、見てくれる人はもともとその問題に興味のある人が多くなると思います。一方で広告は、生活者の意思に関係なく、生活の導線に入り込んでアテンションを奪おうとするもの。しかも、見る人にとっては無料で手軽。そのテーマについて興味のなかった人や、全然知らなかった人も含めて、あらゆる人に届けることができます。(もちろん、この性質ゆえに広告は嫌われスルーされるので、愛と想像力を持ってつくらないとですが。)

例えばわたしが就活をしていた2016年。
オーストラリアのANZという銀行のGAYTMというキャンペーンが話題になっていました。Diversity & Inclusionを掲げ、Sydney Gay and Lesbian Mardi Gras(オーストラリア最大のLGBTQIA +の方々のパレード)を長年スポンサードしてきたANZが、LGBTQIA +の方々のシンボルである虹色やラインストーンでATMをデコレーションしてしまうという企画です。

▲2014年にはじまったGAYTM。話題になり、以降2017年まで毎年進化した新しいGAYTMがローンチされた。出典:ANZ Australia / Twitter

このキャンペーンについては賛否両論ありますが、わたしは、広告でこんなふうに”常識“のアップデートを推し進めるようなことができるんだ!ということに感動し、広告業界に入ることを決めました。
 
最近の日本の広告だと、昨年の夏にSPURが実施した選択的夫婦別姓をテーマにした広告が”常識アップデート”的だったと思います。何かを否定したり新しい考え方を押し付けたりするのではなく、考えるきっかけをくれる感じだったり、コピーやデザイン全体のかろやかさも、選択的夫婦別姓を取り巻く今の世の中の気分をすごくとらえているように思い、個人的にはとても好きな広告です。

▲SPURが掲載した、選択的夫婦別姓をテーマにした広告。/ 出典:宣伝会議デジタルマガジン

もちろん広告の目的はさまざまなので、"常識アップデート"的な広告がいつも正しいとか、どんなときもそういった広告をつくりたいと思っているわけではありません。とはいえ、今の時代、企業がビジョンやスタンスを示していくことは経済活動においてとても重要だと思っているので、わたしは、同じような考えを持つ企業の方々と、このような広告が機能する局面で力になれたらと思っている次第です。


ヤングスパイクスで挑戦した、”常識アップデート”。

ところで先日、Young Spikes(ヤングスパイクス)というコンペに日本代表として参加し、各国の代表17チームの中で1位をいただきました!嬉
生きづらさをたくさん経験してきたわたしならではの視点や企画へのスタンスを活かせた企画だったので、熱く語っていこうと思います。

そもそもヤングスパイクスって?

ヤングスパイクスとは、Spikes Asia(スパイクスアジア)というアジア・環太平洋地域のクリエイターを対象にした広告賞のU30部門です。PR、メディア、デジタル、インテグレーテッドという4つの部門があり、各部門の国内予選(←これを勝ち抜くのが大変!涙)で選ばれた各国代表チームが自国を背負ってしのぎを削るコンペです。2人1チームで戦うのですが、わたしはアートディレクターの中村心(なかむらしん)くんとデジタル部門で日本代表に選ばれ、参加してきました。

※左が一緒に参加したADの中村心(なかむらしん)くん。FACT所属です。

実施された広告キャンペーンの中から受賞作が選ばれるスパイクスアジアとはちがって、ヤングスパイクスは、コンペ用に出されたオリエンに対し24時間でアイデアを考えて提出するという形式です。また、男女差別の問題や環境問題など社会課題(つまりは”常識”のアップデートが必要なテーマ!)がオリエンテーマになることが多いのが特徴のひとつです。

今年のヤングスパイクスでの課題は、アジア諸国において、新型コロナウイルスのワクチン接種率を上げること。日本ではワクチン接種賛成派がマジョリティですが、実は他のアジア諸国には、反対派がマジョリティである国も多くあるとのことでした。つまり、ワクチンは接種すべきでないという考えが”常識”になっている状態です。

人を動かすことと、人の気持ちを動かすことは全然ちがう。

ところで、このような”常識”をアップデートするコミュニケーションは、ものすごくデリケートなものだと思っています。固まった世論に一石を投じるにしろ、動きつつある世論をさらに推し進めるにしろ、さまざまな意見を持つ人の気持ちを揺さぶることになります。議論を起こしながら、しかも最終的には、世の中が良くなる方へ議論を傾かせていかなければなりません。

わたしがこの課題に対し最初に思ったことは、「ちゃんと人の気持ちを動かそう」でした。あたりまえではあるのですが、ワクチンを打てばインセンティブがもらえる仕組みにしたり、接種済みの人々を可視化することでそうでない人に圧力をかけたり、実は「ワクチンを接種する」ということに関して気持ちを動かすことをせずとも、人を動かせる可能性のあるアイデアは考えられます。ですが、ワクチン接種は命に関わる話。接種した方が生存率が高いことは科学的に証明されているものの、接種するかどうかは自分自身で決めるべきことであり、強制するようなコミュニケーションは良くないと思いました。

最終的に提出したアイデアは、ワクチンの開発が間に合わず新型コロナウイルスが原因で亡くなってしまった著名人をAIで復活させ、彼らから「自分のときとはちがって、今を生きるあなたにはワクチンという選択肢がある。接種を検討してみてほしい」とメッセージするという企画。このアイデアは、ワクチンがある今を生きるわたしたちは恵まれているということに気づいたことから着想しました。新型コロナウイルスが原因で亡くなった方の中にはきっと、ワクチンの開発が間に合っていれば打ちたかったという人もいるはずです。今を生きるわたしたちにはあたりまえのようにワクチンがあって、そのありがたさなど普段は意識できてないように思いますが、もしこのことに気づけたら接種を一度検討してもらえるのではないかと思いました。

実際に提出したボード。

生きづらい経験をしてきたから、たくさん考えることができた。

実は最初にこのアイデアを思いついたとき、可能性を感じる一方で、このままではまだ社会的な合意をつくることができないとも感じていました。ワクチン反対が”常識“の地域で、死者の復活というデリケートな企画。反対派の抵抗心をさらに燃やしてしまったり、今賛成派の人をより肩身狭くしてしまったりする可能性も十分あります。自分が生きづらい経験をたくさんしてきた分、誰かを傷つけてしまったり、生きづらい人を増やしてしまったりするような企画はどうしても出したくないという気持ちがありました。

最終的には、

①ワクチンはすでに開発されていてその上で接種しないという選択をして亡くなられた方は対象としないということ(接種していれば今も生きていたかもしれないのに、とご遺族に言うこと同じですよね)

②「生きていたらワクチン接種を推進したかったに違いない」とご遺族の方々が思う方に限ってこの企画に参画してもらうこと

③ご遺族の方々にも動画に出演してもらい、いっしょになって納得のいく形でプロジェクト全体を進行していくこと

まで細かく詰めて、「これならいける!」と思えた段階でこの企画で提出することに決めました。

上記すべてをボード内に盛り込めてはいませんが、1位をいただけたのは、死者からメッセージしてもらうという攻めた企画でありながらさまざまな人の気持ちに向き合って企画を詰めていたことが理由の一つであるように思います。


自分をアップデートしつづける。

理解できないものこそ、大事にする。

ここまで「わたしは”常識”の些細な違和感や変化に敏感です!」風に話してきましたが、そう勘違いしてしまわないよう、実はものすごく注意を払っています。例えばSNSだと、気づけば自分と近い意見の人の投稿ばかりを見てしまうということがよくあると思います。ちょっと過激すぎるな〜とか、時代に逆行してるな〜など思ってしまうと、スルーしてしまいがちですよね。でも、そういうことを思ったときこそ、わたしは一旦立ち止まるようにしています。過激だと思ったのは、もしかするとわたしが鈍感なのかもしれないとか。時代の流れと逆のことを主張しているこの人には、どんな信念や背景があるのだろうとか。正直、考えたところで納得できなかったり、感覚的に理解するところまでいけなかったりすることも多いです。でも、それはそれとして頭の片隅においておくと、数ヶ月後にすとんと納得できたりすることもあるし、納得まではできなくても「こう思考して、こういう考えを持つようになったんだ!」といった思考の流れが分かることもあります。

いろんなプラットフォームで同じタグを検索してみる。

Twitterは本音を書きやすいプラットフォームだと思うので、わたしはTwitterをみていることが多いです。ですが、一方で狭く偏った世界ではあると思うので、(もちろん、だからこそ大事にすべき意見がたくさん落ちているとも思っていますが!)Twitterで話題になったことについて、他のプラットフォームでも検索し意見の違いを比べるようにしています。実際、Twitterでは炎上しているのにインスタでは肯定的な意見が大多数だったりすることも…...!驚
他にも、SNSを全く見てない友人に意見を聞いたりして、どんな意見の人がどれくらいいるんだろう?と考えたり。その上で、自分の超個人的な意見もすごく考えます。

いろんな人を思い浮かべながら、考える。

企画を考えたり、コピーを書いたりするときは、そうやって集めた日々の感覚値を大事にしながら、自分は過激だと思ったあの人はどう思うだろう?反対意見を言いそうなあの人はどう思うだろう?と考えながら詰めていくようにしています。実務の経験はまだまだですが、今年ヤングスパイクスで1位をいただけた企画は、人であれ、キャラクターであれ、死んだ者を復活させた際、どういうポイントにモヤモヤするかを考えてきた経験があったから、企画を詰めるときによい塩梅でアジャストができたように思います。


人生の選択肢をひろげる、ライフデザインクリエイティブ。

最後になりましたが、わたしは今、ライフデザインクリエイティブというテーマを掲げるチームに所属しています。ライフデザイン=人生設計。100人いたら100通りあっていいはずですが、いろんな”常識”によって狭められている部分がまだまだあるように思っています。生きづらさを抱える誰かが、少しでもラクに生きられるように。一人ひとりがもっと自分の素直な気持ちにしたがって、最高の人生を生きられるように。”常識“をアップデートすることで、人生の選択肢の幅をひろげる、そんなクリエイターになりたいと思っています。


付録

ここまで読んでくださったみなさま、ありがとうございました。
最後の最後に、わたしが救われたセクシュアリティ診断を載せておきます。

▲わたしが診断したセクシュアリティ分析サイト「anone,」。/ 出典:anone, 公式サイト

このサイトによると、性別には4つの象限があって、その組み合わせは2000通りにもなるんだとか。ほんとに多様!驚

セクシュアリティの4つの象限。/ 出典:anone, 公式サイト

わたしは現在、小さい頃ほど女性っぽいものへの抵抗感がなくなり、女性っぽい服装も楽しむようになりました。一方で、女性として見られることがすごく嫌なときはやっぱりあります。今のところはXジェンダーがいちばんしっくりきていますが、自分の性別って結局なんなんだろうな……と思ったりすることもあります。年齢やコンディション、誰といるかといったことによって性自認は変わることもあるということ。そして何より、自分がしっくりくる性別を選べばいいという考え方を採用するようになってからとてもラクになりました。モヤモヤしている方がいれば、ぜひ参考にしてみてください。

有田絢音(Ayane Arita)2017年ADK入社。3年半のタイム局担を経て、2020年よりコピーライター。受賞歴:2022年 Young Spikes ゴールド。2021年 Young Lions デジタル部門(国内)シルバー。2021年NEW STARS クリスタル。

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